映画 COLD WAR あの歌、2つの心=勝田友巳
冷戦下ポーランドを舞台に男女が織り成す深い陰影
ポーランドのメロドラマ。画面は白黒、横幅が短いスタンダードサイズ、東西冷戦体制に引き裂かれた男女の、15年に及ぶ出会いと別れを描く。見かけはいささか古くさい。しかし通俗的というなかれ。甘みよりも苦みが利いているし、社会と歴史を背負って骨太でも小難しいことはない。美しい映像とポーランドの民族音楽に乗って、みずみずしい情感が立ち上る。
1949年のポーランド。ピアニストのヴィクトル(トマシュ・コット)は、民族舞踊団を編成するためのオーディションでズーラ(ヨアンナ・クーリク)に目を留めた。情熱的で直情的なズーラと、冷静な現実主義者のヴィクトルは、激しい恋に落ちる。
舞踊団の成功を利用しようとする政治の手が伸び、政府がズーラまで使ってヴィクトルを監視するようになると、ヴィクトルは公演に訪れた東ベルリンで、ズーラを誘って亡命を図る。ところがズーラは現れない。1人西側に渡ったヴィクトルはパリのバーでピアノを弾き、ズーラは舞踊団の花形となる。
この時代のポーランドはソ連との関係に翻弄(ほんろう)され、雪解けと保守化の間で揺れ動いた。互いを忘れられない2人が、監視の目をくぐって西と東を行き来する。再会しては引き裂かれ、時に自ら身を引く。メロドラマの王道だ。
しかし葛藤は複雑だ。2人の間には体制の違いだけでなく、芸術家としての信念の違いも横たわる。流行に合わせてスタイルを変えるヴィクトルと、民族の魂を失うまいとするズーラ。政治の壁は愛で乗り超えても、芸術への誇りや野心は妥協を許さない。政治と芸術が入り組んで、深い陰影を作る。
東に西に舞台が変わるにつれて、白黒映像も調子を変える。東では硬く、西ではすすけて、時代の雰囲気を作り出す。画面を暗転させて数年が経過する省略が、テンポを刻み観客の想像力を刺激する。繰り返し流れるポーランドの民謡は、舞踊団の舞台では牧歌的に、パリの録音スタジオではジャズ調に編曲されて、登場人物の情感に寄り添い場面の奥行きとなる。
パヴェウ・パヴリコフスキ監督は冷戦下のポーランドで生まれ、英国で映画監督となり、現在はポーランドに拠点を置くという。前作「イーダ」では、ポーランドのユダヤ人問題を、やはり美しい白黒スタンダードの映像で描いた。歴史の中に人間を探り、研ぎ澄ました映像で真実に手を伸ばす。
アンジェイ・ワイダやイエジー・スコリモフスキら、ポーランド人映画監督に息づく伝統が受け継がれている。
(勝田友巳・毎日新聞学芸部)
監督 パヴェウ・パヴリコフスキ
出演 ヨアンナ・クーリク、トマシュ・コット、アガタ・クレシャ
2018年 ポーランド・イギリス・フランス
6月28日(金)~ ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開