日韓の深まる溝 韓国半導体だけでなく世界経済に悪影響も=向山英彦
日本政府が韓国への輸出規制を強化した問題で、韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領は7月15日、「韓国政府への重大な挑戦だ」と日本を非難した。一方、世耕弘成経済産業相は翌16日の閣議後会見で、「文大統領の発言にあるような指摘はまったく当たらない」と反論。韓国側が同12日の日韓事務レベル会合で規制の撤回を要請したなどと説明していることについて、「誤った説明だ。こういった状況下では(韓国との)信頼関係に傷が付いてくる」と批判するなど、両政府の溝が深まっている。
日本政府は7月1日、輸出管理で優遇措置を与える「ホワイト国」から韓国を削除し、特定品目(フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素)を包括輸出許可から個別許可に切り替えると発表。上記3品目は韓国の主力産業である半導体と有機ELパネルの生産に不可欠である。韓国にとっては今回の措置は予想外で、急所を突かれたといえる。文在寅政権発足後、対日外交を担った知日派が排除され、日本の動きを予測できなかった面もある。
今回の措置が発表された背景には、いわゆる慰安婦問題や元徴用工の訴訟問題、哨戒機へのレーダー照射などを巡る両国間の軋轢(あつれき)がある。これらに留意しつつも、今回の措置には次のような問題がある。
まず、世界経済に影響が及びかねない点である。影響の度合いは運用によるが、仮に日本の輸出が滞れば韓国経済に大きな影響が及ぶ。昨年の韓国の輸出総額のうち半導体が約2割、ディスプレーが約4%を占め、これらを搭載したスマホやパソコン、テレビなどを含めると4割近くに及ぶ。3品目の輸出規制強化は、韓国の基幹産業である半導体産業の設備投資を冷え込ませる恐れがある。
サムスントップ来日
その衝撃の大きさは、韓国サムスン電子の事実上トップである李在鎔(イジェヨン)副会長が急きょ来日し、銀行や取引先を回って対応に追われたことに表れている。注意したいのは、その影響が材料や製造装置を供給する日本企業だけでなく、中国などの半導体のユーザー企業にも及ぶことである。韓国の半導体メモリーの輸出の約8割が中国・香港向けで(図)、中国で米国企業向けに生産する企業も含まれる。
また、日韓関係が一段と悪化しかねない。今回の措置の目的は、韓国政府に適切な行動を促すことにあるが、逆に反発を招いた。韓国政府は経済報復と捉え、WTO(世界貿易機関)提訴など、外交攻勢を強める構えである。韓国内でも、日本製品の不買などの対抗措置が始まった。さらに、日韓企業はこれまで、政治と経済を分離して良好な関係を築いてきたが、そうした企業活動への悪影響も懸念される。
韓国は日本にとって3番目の輸出相手国で、両国企業は複雑で密接なサプライチェーン(供給網)で結ばれている。日韓関係の冷え込みは、どちらにもマイナスの影響を及ぼしうる。
(向山英彦・日本総合研究所上席主任研究員)