米国の予防的利下げ2回で相場好転へ=渡辺浩志
トランプ大統領の通商政策を巡る不透明感が世界経済に影を落としている。市場参加者は米国の景気悪化を予想し、その回避に向けて米連邦準備制度理事会(FRB)に予防的な利下げを催促する。政策金利予想を表すフェデラルファンド金利先物は、市場参加者が来年末までに4回の利下げを期待しているとの見方を示す。
利下げ期待が高まるなか、米国の長期金利は2%前後まで下落したが、これが日米金利差縮小による円高を招き、為替は一時1ドル=106円台を付けた。円高はデフレ圧力を高めるとともに日本株の上昇を抑え、金融環境を引き締めてしまう。そのため日銀にも金融緩和を求める声が上がる。
しかし、トランプ政策は先が読めず、今後景気がどこまで悪化するのかを予想することは難しい。FRBにしてみれば、予防的利下げを行いたくても適切な回数がわからない。利下げが行き過ぎてしまえばバブルを招く恐れもある。
そこで筆者はテイラー・ルールを用いてFRBの行動様式を定式化し、景気悪化の回避に必要な利下げ回数を推定した(表)。テイラー・ルールとは、失業率を完全雇用の達成を示す自然失業率へ、インフレ率をFRBが目標とする2%へ、それぞれ導くのに適した政策金利水準を割り出すモデルだ。
市場は景気の谷を想定
これによれば、現在市場が催促する4回の利下げが必要になるのは、例えば失業率が4・2%まで上昇し、インフレ率が1・4%まで下がるような状況であると分かる。市場参加者は、失業率が現在の水準から短期間に0・6ポイントも悪化すると考えているわけだが、これは完全な景気後退を想定していることに他ならない。
図は、失業率の変化幅と景気との強い相関(オークンの法則)を示すものだ。これによれば、失業率が0・6ポイント悪化すると予想するのは、景況感を表すISM製造業指数が通常の景気の谷(最悪期)にあたる40近辺まで悪化すると予想することと同義だといえる。
しかし、それはさすがに行き過ぎだ。米中通商摩擦によって米国景気が悪化するにせよ、当面はISM指数で50を若干割り込む程度、すなわち失業率で3・8%、インフレ率で1・4%程度にとどまるのではないか。そうであれば、必要な利下げ回数は1・8回だ。
FRBが今後実際に1~2回の予防的利下げを行えば、その景気刺激効果で市場心理が好転し、過度な利下げ期待が剥落するだろう。その場合、下がり過ぎた米長期金利は反発し、円高や日本株の下落圧力が後退するとともに、日銀に追加緩和を求める声も収まっていくと思われる。
(渡辺浩志、ソニーフィナンシャルホールディングス・シニアエコノミスト)