国際・政治注目の特集

NEWS 世界経済総崩れリスク 米中通商戦争激化、中国経済悪化 欧州減速に身構える市場=長谷川克之

米中は通商戦争から通貨戦争へ(トランプ米大統領〈左〉)と習近平・中国国家主席)(Bloomberg)
米中は通商戦争から通貨戦争へ(トランプ米大統領〈左〉)と習近平・中国国家主席)(Bloomberg)

 お盆休み中の8月第3週、世界の金融市場は記録的な激動にさらされた。株価は世界的に乱高下したが、相場変動の主役は債券相場だった。米国債利回りは10年債が8月15日に1・53%まで低下。月初来の低下幅は0・5%弱に及び、2年債を下回った。10年債と2年債の金利が逆転する「逆イールド」となり、景気後退への警戒が強まった。30年債も同日2%を割り、1・97%の過去最低利回りを記録。日欧でも金利低下圧力が強まり、10年債は一時、日本でマイナス0・24%、ドイツでマイナス0・71%に低下した。世界的な金利低下の背景には三つの要因があった。

 第一が、エスカレートする米中通商戦争である。8月5日に人民元が約10年ぶりに1ドル=7元台に下落すると、すかさず米財務省が1994年7月以来約25年ぶりに中国を為替操作国に認定。通商戦争が通貨戦争の色彩も帯びつつあるとの見方も根強い。通商戦争、通貨戦争が高じれば世界経済の失速と米国の景気退は避けられないだろう。

 一時的な景気後退で済めばまだ良い。第二次世界大戦後の世界経済の発展の前提となってきた自由貿易の原則が今揺らいでいる。世界第1、第2の経済大国が新冷戦に突入し、世界秩序が揺らいでいる。その影響が短期的なマイナス成長にとどまる保証はない。

「逃亡犯条例」を巡る香港での反政府デモの継続、激化も投資家心理を悪化させている。香港のデモが、どのような形で終結するのか。30年前の天安門事件すら脳裏をよぎる。デモは政治体制のあり方にかかわるだけに、米中関係にも当然影響してくる問題となる。

 第二が、中国経済の落ち込みである。8月14日に発表された7月の経済指標は軒並み悪化した。生産(工業付加価値生産額)の実質伸び率は前月の前年比プラス6・3%からプラス4・8%に減速。2009年2月の落ち込み以来の低水準となった。

 内訳では、自動車のマイナス幅拡大に加えて、一般機械や通信の伸びも大きく減速、米中通商戦争の影響が顕在化しつつある。個人消費もさえない。世界最大の自動車市場の中国での新車販売は7月まで13カ月連続で前年割れが続いており、底が見えない。

 第三が、欧州経済の悪化である。8月14日に発表された4~6月期のドイツGDP(国内総生産)は中国経済減速のあおりを受ける形で、前期比マイナス0・1%のマイナス成長。それ以上に衝撃が大きかったのが、8月13日に発表された企業の景況感を示す独ZEW指数の大幅な下振れだ。現状指数は11年ごろの欧州債務危機時の水準を下回り、リーマン・ショック時以来の低水準となった。輸出依存度が高いドイツの不振は世界的な製造業の調整圧力の強さを示すものである。

 世界経済の混迷を受けた安全資産選好の高まりが、歴史的な低金利を示現させたことは想像に難くない。もっとも現状水準の超低金利、あるいはマイナス金利の水準を理論的に説明することが難しいことも事実だろう。債券バブルが醸成されている可能性があることにも注意が必要だ。

(長谷川克之・みずほ総合研究所チーフエコノミスト)

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