週刊エコノミスト Onlineアートな時間

映画 M/村西とおる 狂熱の日々 完全版 「AV界の帝王」怒涛の日々描く 異色のドキュメンタリー=寺脇研

(c)2019 M PROJECT
(c)2019 M PROJECT

 40代以上の男性読者の皆さんであれば、村西とおる、という名前に覚えがあるはずだ。1980年代半ばから90年代にかけて、アダルトビデオ(AV)の監督として大活躍し、マスコミにも再々取り上げられた。また、今年Netflixで全世界配信され話題を呼んだドラマ『全裸監督』の、山田孝之が演じた主人公のモデルでもある。

 なにしろ、破天荒な人物なのだ。その男の生き方をドキュメンタリー映画にしたのが、この作品である。文字通り、その生きてきた「狂熱の日々」が描かれていく異色の映画だと言っていい。

 冒頭、いきなり登場するのは、大ヒットAV『SMぽいの好き』(86年)でデビューした女優・黒木香。「AV界の帝王」と異名をとった村西は、愛人でもあったとされる彼女の存在とともに、あのバブル期の日本に登場して一世を風靡(ふうび)する。「わいせつ図画販売目的所持」や「児童福祉法違反」などで逮捕されたりもしながら、自らの会社は年商100億円を稼ぐ栄華を誇った。米国ロケ中に逮捕、半年勾留され、懲役370年を求刑されながら1億円の保釈金を払って帰国したという武勇伝もある。

 自作自演で黒木と共演するこの男の製作現場映像にかぶせて、彼の人物像を表象する言葉が字幕で大きく示されていく。【創造者、破壊者、成り上がり、ジャパニーズドリーム、カリスマ、ファンタジスタ、野生児、レジェンド、ヒットメーカー、確信犯、トリックスター、時代の寵児(ちょうじ)】……そして「転落」。バブル崩壊とともに没落し、50億円の借金を抱える。

 それでもめげずに起死回生を図るプロジェクトは、世界初の4時間余りの超長編DVDシネマと35本のヘアヌードDVDを同時に作ろうというとんでもないものだ。そのため96年に北海道ロケをした際のメーキング映像が、映画の中盤を占める。なにしろ村西は天才気質だから、その製作現場はトラブル続きだった。果たして作品は完成するのか? この有りようも、丸ごと「村西とおる」なのである。

 結局、このプロジェクトでの復権はかなわず、その後心臓病で死線をさまよったりするものの、現在は「前科7犯、50億の借金を完済した男」を自称して表舞台に再登場している。『全裸監督』の原作者・本橋信宏との対談で自分史を語る場面には、極貧の幼少期から身を起こした波瀾(はらん)万丈の70年の重みがある。

 片岡鶴太郎、玉袋筋太郎から西原理恵子、高須克弥、さらには学者の宮台真司、松原隆一郎と、村西を知る多彩なメンバーが途中で登場し、画面で語るコメントも楽しい。

(寺脇研・京都造形芸術大学客員教授)

監督 片嶋一貴

出演 村西とおる、本橋信宏、玉袋筋太郎

2019年 日本

11月30日(土)よりテアトル新宿、丸の内TOEIほか全国順次公開

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月2日号

バブル超え 日本の実力24 実体経済と乖離する株高にたまるマグマ■編集部26 株価4万円 私はこう見る マネー資本主義が作った壮大なバブル■澤上篤人27 株価4万円 私はこう見る 割高感なく急速な調整はない■新原謙介28 株価4万円を考える 日本“企業”と日本“経済”は違う■山口範大30 日独逆転  [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事