映画 パラサイト 半地下の家族 競争社会の不条理を戯画化 家族総出で醸し出す黒い笑い=勝田友巳
経済格差が拡大して富裕層と貧困層が分断され、階層が固定し、貧しい者が貧しい者を生む負のスパイラル。世界中で起きている悲劇に、映画も敏感に反応する。日本では片山慎三監督が「岬の兄妹」を自主製作で作り、英国のケン・ローチ監督はリアリズムの「家族を想うとき」で異議を唱えた。韓国のポン・ジュノ監督は、黒い笑いで抵抗する。
登場するのは半地下の部屋で暮らすキム家の一家4人。ギテク(ソン・ガンホ)は失業中、長男のギウ(チェ・ウシク)は大学受験に失敗、長女ギジョン(パク・ソダム)は才能はあるのに美大進学がかなわない。妻チュンスク(チャン・ヘジン)と家族総出で内職に精を出し、カツカツの生活だ。留学の決まった友人から、ギウが裕福なパク家の女子高生ダヘの家庭教師の口を紹介されて、どん底生活から抜け出すチャンスを得た。
家の中で携帯をかざし、周囲のWi-Fiにただ乗りしようと部屋の中をウロウロ。地面より低いところにある部屋の窓から見えるのは、道を歩く人々の足。酔っ払いの立ち小便におののいている。一方パク家の邸宅は高台にあり、急な坂道を上ってたどり着く。現代の困窮生活を視覚的、象徴的に見せて、映画は開巻から快調だ。登場人物は韓流らしく輪郭が鮮明で、小さな笑いを随所にはさみながら話はテンポよく進んでゆく。
キム家の面々は、怠け者でも悪人でもない。しかし、ちょっとズルをする。ギウはダヘの弟に絵を教える先生として妹ギジョンを後輩と偽って雇わせ、ギジョンはパク家の運転手を追い出して父親を後釜に据える。残る家政婦も、首尾よく母親とすげ替えた。つまり一家全員が、親子とは明かさずパク家に寄生することになったのだ。
家を乗っ取ろうなんて野心は抱かない。定収入を得て人並みの暮らしをしたいだけ。仕事はけっこうまじめだし、パク家の主人の、上から目線の物言いも受け流す。しかしもちろん、不測の事態が起きてしまう。
話は二転三転して意外な方向に進んでゆく。その顛末(てんまつ)を強力なエンジンにしながら、単なるドタバタには終わらない。ポン監督が、資本主義的競争社会の不条理から目をそらさないからだ。席取り争いが厳しくなる一方の現代では、自分がはい上がれば代わりに誰かが転落する。そして底辺の争いは、上層の住人の視野にも入らない。鬱屈した怒りが、やがて暴発する。
ポン監督は、理不尽な世の中を衝撃的な戯画として示した。怒りよりも冷静な視点が、かえってすごみとなっている。カンヌ国際映画祭でパルムドールも、むべなるかな。
(勝田友巳・毎日新聞学芸部)
監督 ポン・ジュノ
出演 ソン・ガンホ、チャン・ヘジン、チェ・ウシク
2019年 韓国
1月10日(金)よりTOHO シネマズ日比谷ほか全国ロードショー