インフルエンザ大国 米国の文化が背景=中園明彦
世界中が新型コロナウイルスに恐怖を覚えている。米政府もさまざまな対策を発表しており、直近2週間に中国渡航歴のある外国人の入国禁止など、水際での防止策を強化している。3月2日現在、米国本土のコロナ発症者数は43人だ。
これだけ見ると、米国はウイルス感染に敏感で、優れた対応を取っている国に見える。ところが、筆者が2月初旬に日本へ出張した際、米国でインフルエンザが猛威をふるっていることが話題になっていると聞かされた。帰国後、米疫病対策センター(CDC)のサイトを見ると、驚愕(きょうがく)の事実が載っていた。
今シーズン(2019年10月以降)の入院患者数が既に25万人、死者が1万4000人を超え、歴史に残る大流行となる可能性を警告していた。調べてみると、米国はインフルエンザ大国であることがわかってきた。2年前(17年冬)はなんと入院患者数49万人、死者6万1000人を記録していた。過去の死者数は、15年5万1000人、14年3万8000人、13年4万3000人と、主要先進国の中で突出しているのだ。
高額医療費が理由で通院しないことが原因と考えたが、CDCのデータによると、インフルエンザを理由とした通院患者は毎年1500万人程度おり、入院患者も50万人前後に上る。政府はワクチン予防接種を推奨しており、地域によっては無償接種も普及している。米国成人のインフルエンザ予防接種率は45・3%(18年)と、日本の50・9%(15年)よりは低いものの、インフルエンザ大国の説明にはならない数字だ。
となると、拡散防止策と感染予防策に問題があると見るのが妥当かもしれない。国民の対インフルエンザ意識が低いため、感染初期に通院しない人が多数いることと、発症後、簡単に感染が広がる社会的背景が存在すると見る。
米国人と話していて気付くのは、インフルエンザを症状の重い風邪としかとらえておらず、さほど特別性を認識していないことだ。よって熱さえ下がれば出社する。しかもマスクの着用は皆無で、街での着用は逆に病人と見られるリスクがあり忌避されている。
そもそも、インフルエンザの拡散メカニズムが広く認識されておらず、他人にうつすことをあまり気にしていない様子だ。さらに、発熱していても出社する人が多いことも分かってきた。米国は労働者の実に23%が時給制で働いており、有給休暇が付与されないのだ。病欠はすなわち無給になる。民間調査機関によると、34%の人がよほど症状が悪化しない限り家にとどまらないと答えている。
料理手づかみも一因か
インフルエンザ大国であるゆえんはさまざまだが、筆者は米国の文化が最大の理由と考えている。
米国は誰とでも握手・ハグをするが、とにかく手を洗わない。ハンバーガーのように手で直接触れる食べ物も人気だ。容易に拡散するのも納得できる。会食時、一旦テーブルに着くとトイレに中座することはマナー違反と考えられており、しかもおしぼりもない。そして、汚い手のままパンに手を伸ばす。食事中「緊急の用事がある」を理由に中座して、手洗い・うがいをする以外、この国での自衛策はなさそうだ。
(中園明彦・伊藤忠インターナショナル会社ワシントン事務所長)