投資・運用金が上がる

大荒れ金融市場で高まる「究極の安全資産」の価値=種市房子/白鳥達哉

     <国内40年ぶり高値!>

    (注)ドル建てはロンドン市場の金現物価格の月次平均、円建ては田中貴金属工業が公表している税抜き小売価格の月次平均 (出所)米セントルイス連邦準備銀行、田中貴金属工業より編集部作成
    (注)ドル建てはロンドン市場の金現物価格の月次平均、円建ては田中貴金属工業が公表している税抜き小売価格の月次平均 (出所)米セントルイス連邦準備銀行、田中貴金属工業より編集部作成

     東京・銀座の「ギンザタナカ銀座本店」。貴金属国内最大手の田中貴金属工業の直営店では今、金現物(地金、金貨)を売却・購入する来店客が絶えない。円建ての金小売価格(税込み)が今年1月6日、1グラム=6000円を突破。節目の価格を超えて今、約40年ぶりの高値水準にある。3月10日午後に店を訪れると、金現物を購入・売却する四方を囲った接客ブースが10カ所並び、15人が待っていた。金は価格上昇すると、過去に購入した人の売却が増えるが、現在はさらなる価格上昇を見越し、購入を希望する人が引きも切らない。

     田中貴金属の円建て金小売価格は、1980年1月に付けた1グラム=6495円(税抜き)が過去最高値。その後、長く価格低迷が続いたが、2006年以降はじりじりと値を上げる。11~18年は4000円台でしばらく推移を続けた後、19年から価格上昇が加速。同社の19年の現物買い取りは、前年比90%増の3万3742キロに達した。ただ、高値の中でも購入希望が多いのが、今回の相場の特徴だ。実際、同社の今年2月の販売量は前年同月比55%増、さらに純金積立の申し込み件数も前年比7倍に増えたという。

     純金積立とは毎月、任意の一定額を自動で引き落とし、営業日数で割った金額で毎日金を購入する仕組み。田中貴金属の場合、月3000円から投資可能で、金投資を始めたい人にもハードルが低い。同社の加藤英一郎貴金属リテール部長は「史上最高値圏にあって、当社の買取量が増えるのは当然としても、ほぼ同量の販売がある。過去に例がない現象だ。経済に不安定要素が多い今、『金を持っていなければ』と考える人が増えて、投資家の裾野が広がっているようだ」と分析する。(金が上がる)

    コロナ、原油安の「有事」

    (注)NY金は日中の高値、NYダウは終値 (出所)ブルームバーグより編集部作成
    (注)NY金は日中の高値、NYダウは終値 (出所)ブルームバーグより編集部作成

     貴金属国内大手、三菱マテリアルの酒井健貴金属部長も、最近の顧客動向について「金は高値圏にはあるが、世界経済や老後資金などの不安がただよう中、安全資産としての金への注目が集まっており、取引量を押し上げている」と語る。約40年前はドル建てでも高値の時期だったが、1ドル=240円前後と米ドルに対して円の価値が相対的に現在より大幅に低かった時代。その後の円高も円建て金価格を抑える要因となったが、長い時を経て再び今、高値を試そうとしている。

     その金価格は今、ドル建てでも上昇している。世界的な指標価格のニューヨーク(NY)金先物価格は3月9日、1トロイオンス=1700ドルを突破し、2012年12月以来、7年3カ月ぶりの高値を付けた。金価格上昇の引き金となったのは、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた、株式などリスク資産の暴落だ。同日のニューヨーク株式市場では一時、売買停止措置が発動されるほど強い売り圧力にさらされ、ダウ工業株30種平均(NYダウ)は前週末比2013ドル安と過去最大の下げ幅を記録した。

     株式から逃避したマネーは、金と同時に米国債へ向かい、長期金利の指標である米10年債利回りは同日、0・6%を割り込む史上最低水準へ急落(債券価格は上昇)。また、石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非OPECの協議も決裂し、原油価格はWTI(米国産標準油種)先物が一時、約4年ぶりに1バレル=30ドルを割り込む水準へ急落したことも金融市場の混乱に拍車をかけた。世界的に広がる新型コロナウイルスの感染は終息の兆しが見えず、金融市場の動揺はしばらく収まりそうにない。

     楽天証券経済研究所の吉田哲(さとる)コモディティアナリストは「現在は、株安、ドル安、新型コロナウイルス・原油暴落という有事の、金価格を押し上げる『三本の矢』がそろった状態」と話す。投資家が有事で資産を確保しようにも、株も通貨も当てにならないのだ。そこで、金利は生まないが、希少であるがゆえにそのものに価値がある金が資金を集めている。「究極の安全資産」としての価値が今、金融市場でも見直されているのだ。

    「実質金利」がマイナス

     ただ、ドル建ての金価格は、新型コロナウイルスの感染が広がる前の昨年から、すでに上昇トレンドを描いていた。ドル建ての金価格のピークは1970年以降、1トロイオンス=870ドルを超えた1980年1月と、1900ドルを突破した2011年9月の2回あるが、現在は3回目のピークを目指す局面にある。現在を含めた3回の局面に共通するのは、米国の名目金利からインフレ率を差し引いた「実質金利」がマイナスにあること。実質金利のマイナスは貨幣の価値の目減りを意味し、金が「インフレに強い」と言われるゆえんだ。

     80年1月の金価格のピーク時は、名目金利(米長期金利)は10%超だったが、第2次オイルショックに伴って物価も狂乱的に高騰し、実質金利はマイナスとなった。また、11年9月は名目金利は1%台に低下していたが、この時期も原油価格が1バレル=100ドル前後と高騰し、インフレ率が上回っていた。そして今、インフレ率は2%前後だが、世界的な金融緩和によってマネーがあふれ、米国債などに向かった結果、名目金利が歴史的な低水準となって実質金利がマイナス化している状態だ。

    ファンドも買い越し

    世界各地で株価が暴落(3月10日)
    世界各地で株価が暴落(3月10日)

     米連邦準備制度理事会は3月3日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて0・5%の緊急利下げを決め、トランプ米大統領はさらなる金融緩和を促す。この先も金利低下が続けば、物価水準が変わらなくても事実上のインフレ状態となる。マーケットエッジの小菅努代表取締役は「過去2回の金価格のピーク時は、インフレ懸念が安全資産へとマネーを向かわせ、金価格上昇を引き起こした。現在も金価格が上昇しているのは、金融緩和によって引き起こされる将来的なインフレリスクを見越しているのではないか」と話す。

     今年11月には米大統領選を控え、経済の下支えは大きな政策テーマだ。豊島&アソシエイツの豊島逸夫代表は「政策に不確実性が伴うトランプ大統領、法人増税を打ち出す民主党候補、どちらが勝っても金価格上昇要因。市場はこの要因を織り込みつつ、潤沢な市場マネーも後押しして、大統領選まで金バブルは続くのでは」と見る。NY金先物市場では今年2~3月、ファンドによる買い越しが史上最高水準で推移し、市場では金価格の先高観が強い。

     ただ、金価格は短期的には乱高下する局面はありそうだ。現在のような株式暴落場面で含み損を抱えた投資家は、手元資金を必要とするため、金を売っている可能性が高い。実際、NY金価格は一時、1700ドルを付けた後、やや下落に転じている。豊島氏はファンドの大量買い越しについて「先物は持ち高調整によって必ず売られる。史上最多というのは、それだけ売りのエネルギーがたまっていること」とも警告する。目先の価格動向に一喜一憂せず、長い目で見て大きな変化の流れを捉えることが重要だと言えそうだ。

    (種市房子・編集部)

    (白鳥達哉・編集部)

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