民主党予備選で「乱立」収束 穏健派の「見えざる手」動く=高井裕之
民主党の大統領候補選びは、3月3日のスーパーチューズデーで、穏健派のバイデン元副大統領と、急進派のサンダース上院議員の2人に事実上絞られてきた。
初戦のアイオワで4位、続くニューハンプシャーで5位、ネバダでは首位に離されての2位と、3連敗だったバイデン氏だが、序盤州最後のサウスカロライナで首位の座を射止め復活を果たした。
サウスカロライナで黒人の支持を得られず撃沈したブティジェッジ・前サウスベンド市長がスーパーチューズデーを目前にあっさりと撤退表明し、バイデン氏支持を表明したことで流れが一変した。翌日にはクロブシャー上院議員も撤退を表明し、バイデン氏の支持に回った。
勢いづいたバイデン氏はスーパーチューズデーでも10州で勝利し、一躍フロントランナーに躍り出た。スーパーチューズデーで惨敗したブルームバーグ氏も、バイデン氏の支持を表明。多くの候補者が乱立し混迷を極めた民主党の候補者選びは、わずか数日で2人に収斂(しゅうれん)するという歴史に残る異例の展開となった。
バイデン氏と20年来の親交があり、アイオワ党員集会でも同陣営を手伝った筆者の友人によれば、バイデン氏はブティジェッジ、クロブシャー両候補とは選挙キャンペーン中から連絡を取り合っており、緩い連携関係があったという。サウスカロライナでの勝利後にバイデン氏から両候補に歩み寄り、自然と今回の流れにつながったという。
民主党には、2016年の大統領選で共和党の主流派候補が乱立し、互いに潰し合ったがためにトランプ氏の台頭を許してしまったという共通認識があった。このままでは急進派のサンダース氏に指名を奪われ、大統領選に惨敗するのみならず、議会選でも大敗し、下院まで奪還されるとの危機感が醸成されていたのだ。
オバマ元大統領などの党重鎮が舞台裏でひそかに根回しに動いたとのうわさもあるが、筆者の友人はそれをきっぱり否定する。穏健派の間で暗黙の了解として共有していた「危機感という見えざる手」が動いたというのが真相のようだ。
副大統領候補は女性か
さて、一気に優位に立ったバイデン氏だが、にわかに注目を集めているのが副大統領候補選びである。
バイデン氏は15日のCNNの討論番組で、「副大統領候補は女性」と明言した。また、「比較的若い」ことも必須条件であり、更に言えば白人以外が望ましいとされる。
現在名前が挙がるのはクロブシャー氏、ウォーレン氏(両氏とも白人)、早い時期に撤退を表明したハリス氏(インド・ジャマイカ系)など大統領候補にもなった現役の上院議員だが、その中で一人だけ異色の存在がステイシー・エイブラムス氏(アフリカ系)である。
エイブラムス氏は18年のジョージア州知事選で現職のケンプ知事(共和党)と激戦を演じたことで一躍全国区に躍り出た才媛の黒人女性。46歳で将来の大統領候補とも称される逸材である。まだ予断は禁物だが、民主党予備選の後半にはこのあたりに注目するのも面白いのではないだろうか。
(高井裕之・米州住友商事会社ワシントン事務所長)