教養・歴史書評

『トランプ後のアメリカ社会が見えるか 資本主義・新自由主義・民主主義』 評者・服部茂幸

    著者 高橋琢磨(評論家) 信山社 4800円

    中国、そして世界もゆがめた米国流の自由と思想、経済学

     本書はアメリカの自由と、それを基礎とする思想と経済学が、アメリカと世界をいかにゆがめているかを論じるものである。

     本書は、ヴォルフガング・シュトレークの『資本主義はいかにして終わろうとしているのか』を引きながら、新自由主義が作り出した現在の民主主義は、通常の市民と、AI(人工知能)による高度な技術体系に対応できるスキル・エリート(市場の勝ち組という意味で「市場市民」と呼んでいる)の二重主権になっていると言う。また、民主主義は突然死するのではなく、寡頭政治が生じることにより、自己管理システムが破壊されて死ぬというスティーブン・レビツキーとダニエル・ジブラットの見方(著書『民主主義の死に方』にある)を紹介する。

     また共産党が支配する中国の高成長を支えているのは、都市戸籍を与えられないまま工場に動員される、弱い立場の「農民工」の低賃金である。だから、アメリカと対立する中国の高成長も新自由主義そのものだと本書は主張する。

     本書によると、賃金が停滞する中で、アメリカでは住宅が経済成長の手段として利用されていた。すなわち、住宅価格の上昇によって、上昇したエクイティ(住宅の価値から住宅ローンを引いたもの)を担保に資金を借り、消費することにより経済成長を続けていたのである。こうした成長モデルを終わらせたのが、2008年の金融危機である。

     金融危機から10年以上が経過した今では失業率は4%を割り、ほぼ完全雇用が達成されているというのが、一般的認識である。しかし、本書では00年初めから15年までに就労率は低下しており、700万人もの働かない人々が存在している事実を挙げている。労働市場の回復は見かけにすぎないのである。

     アメリカは「選択の自由」の名の下、先進国では当然の国民皆保険制度が持てずにいる。それが医療と医療保険の価格高騰をもたらし、自己破産を招いていることも指摘する。

     自由は多義的である。金で買える民主主義も、医療費によって破産するのも「アメリカの自由」の一部だ。

     最後に誤記を指摘しておきたい。9ページで、米国の人民党(ポピュリスト党)が1896年の大統領選挙でアンドリュー・ジャクソンを候補に立て勝利したと書いているが、正しくは人民党の候補はウィリアム・ジェニングス・ブライアンで、共和党のウィリアム・マッキンリーに敗北している。ジャクソンが大統領になったのは、1829年である。

    (服部茂幸・同志社大学教授)


     たかはし・たくま 1943年生まれ。慶応義塾大学経済学部、新聞研究所卒。野村総合研究所勤務の後、北海道大学客員教授、中央大学大学院教授などを務める。著書に『21世紀の格差』『戦略の経営学』など。

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