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教養・歴史 書評

『35歳から創る 自分の年金』是枝俊悟(大和総研金融調査部研究員)著 日本経済新聞出版社 評者・井堀利宏

著者 是枝俊悟(大和総研金融調査部研究員) 日本経済新聞出版社 1500円

長期を見据えた資産形成へ 適切な備えの指針示す

 公的年金だけでは老後の資金が2000万円不足するという金融庁の試算が物議を醸したのはまだ記憶に新しい。本書は年金の将来像に不安を感じている35歳前後の若い読者に、財源の範囲内で給付水準を自動調整する「マクロ経済スライド」を取り入れている現行公的年金制度のもとで想定されているさまざまな将来シナリオを前提として、公的年金を多く受給し豊かな老後を過ごすためのライフスタイルを提示している。

 妻が専業主婦である「モデル世帯」を想定すると、公的年金だけでは老後資金が不足する。しかし、35歳の若い世代が夫婦共働きを生涯続けて世帯の生涯所得を増やせば、公的年金給付も連動して増えるので、「衰退シナリオ」という厳しい将来試算でも老後の生活資金は十分に準備できる。現状でも専業主婦の「モデル世帯」は少数派だから、フルタイムの共働きが多数派になる社会を見据えた提言は説得的であり、賦課方式の公的年金が持続可能になる有力な選択肢の一つだろう。

 夫婦ともにフルタイムで生涯働くことができれば当事者にとって望ましいし、そのための環境整備も進めるべきである。ただし、こうしたミクロレベルでの対応がマクロでの年金財政にどう影響するかは別の議論である。個人の働き方が大きく変われば、マクロ経済や財政にも影響が出てくる。例えば、フルタイムでの共働きが多数派になれば、そうした労働者の人数が増えるので、1人当たり賃金はそれほど上昇しないかもしれない。また、老後の年金給付が大幅に増加すれば、国内総生産(GDP)が大きく増加しない限り、30年後の勤労世代の年金負担を増加させるか、一般会計からの財政支援を増加させるか、何らかの対応も必要になる。そうした整合性の検証は本書の守備範囲を超えている。

 ところで、老後資金として公的年金にどこまで頼れるかはともかく、自助努力での資産形成が必要なことは言うまでもない。年金額が増えても現役世代の所得代替率は低下するので、それを補完するためにNISA(ニーサ)(少額投資非課税制度)やiDeCo(イデコ)(個人型確定拠出年金)など自助努力による資産形成が求められる。漠然とした年金悲観論に陥ると、ともすれば、過度に将来を心配するあまり、危ない投資に手を出すこともある。35歳の若い世代は長期にリスクを分散できるので、賢い資産分散投資で老後資金を地道に準備すべきだろう。本書はそのための適切な指針を与えてくれる。

(井堀利宏・政策研究大学院大学特別教授)


 これえだ・しゅんご 1985年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後に大和総研入社。金融庁への出向を経て2016年より現職。著書に『徹底シミュレーション あなたの家計はこう変わる!』など。

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