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「事実上の財政ファイナンス」黒田日銀がとうとう「企業ファイナンス」の「パンドラの箱」を開ける
「中央銀行ができることは何でもやる」
日本銀行の黒田東彦総裁は4月27日、記者会見でそう強調した。日銀が開いた金融政策決定会合で、追加の金融政策が決まったばかりだった。
追加政策により、
①日銀が購入できる国債は「年80兆円をめど」から「上限なく必要な金額」
②社債は1社につき従来の3倍の3000億円
③コマーシャルペーパー(CP)は5倍の5000億円
―にそれぞれ増えた。
①は感染拡大による「大恐慌以来の景気悪化」(国際通貨基金のゲオルギエワ専務理事)に対応するためだ。
政府が大型の経済対策を打ち出す財源は国債となる。増発すれば、理論的には金利は上昇(国債価格は下落)する。
それを抑え込むため、積極的かつ無制限に国債を購入すると決めたわけだ。
しかし、日銀OBは「国の財政赤字を日銀が肩代わりする〝財政ファイナンス〞という禁じ手を宣言したに等しい」と憤りを隠さない。
第二次大戦中の政府は野放図に国債を増発し、日銀が買い支えた。そのツケが終戦の半年後、「新円切り替え」という名のデフォルトをもたらし、窮乏する国民生活を追い込んだ。
日銀の決定を聞いて、先のOBはかつての悪夢が蘇がえるような思いがしたのだ。
②と③は、日銀が事実上の〝企業ファイナンス(企業債務の肩代わり)〞を本格化することを意味する。
ある市場参加者は日銀の権限肥大化を懸念すべきだという。
「すでに日銀はETF(上場投資信託)の大量購入を通じて、多くの上場企業の最大株主になっています。今回の決定会合により、日銀が企業ばかりか政府も支配する構図が鮮明になったのです」
米国は買い入れ方針を国債は無制限、社債は投資不適格級に拡大すると決めた。
ユーロ圏も投機的格付けの債券を担保として容認した。日銀は足並みを揃えた格好だ。
「禁じ手」に踏み込んだ末に何が起きるか。終戦直後の悪夢を繰り返すのはごめんだ。
(森岡英樹)