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国際・政治 公文書クライシス

「黙っていればバレない」霞ケ関の官僚はなぜ「公文書破棄」に手を染めるのか=毎日新聞取材班

参院予算委員会で黒川弘務・東京高検検事長の定年延長問題について立憲民主党などの統一会派・小西洋之氏の質問に対する森雅子法相の答弁で質疑が止まり、閣僚席から発言する安倍晋三首相=国会内で2020年(令和2年)3月9日、川田雅浩撮影
参院予算委員会で黒川弘務・東京高検検事長の定年延長問題について立憲民主党などの統一会派・小西洋之氏の質問に対する森雅子法相の答弁で質疑が止まり、閣僚席から発言する安倍晋三首相=国会内で2020年(令和2年)3月9日、川田雅浩撮影

少なすぎるPCR検査、遅すぎる10万円の一律給付、必要性の乏しい布マスクの配布――

安倍政権はコロナ対策で不可解な対応を繰り返している。

一方、国民の関心がコロナに集中するさなかに、検察幹部の人事に介入できる法案を成立させようともしている。

安倍政権はなぜこれほどの好き勝手ができるのか。

答えは簡単だ。誰がいつ、どんな理由でものごとを決めたのかを記した公文書を官僚たちが残さないからだ。

つまり、どんな決定を下しても永遠に検証されることがないのだ。

「森友・加計学園」「桜を見る会」に見られるように、安倍政権の下で公文書がかつてないほど軽んじられている。

そして、民主主義をあざ笑うかのように、秘密主義が強まっている――

闇に消える官僚メール

「公文書の問題で、おもしろい話? ああ、そういえば、最近、霞が関の官僚の間でベタ打ちメールの報告が増えてるね。これはいずれ問題になるかもしれない」

 国家公務員が使う公用電子メールの問題をはじめて知ったのは、2017年の春、旧知の文科省の官僚Aとかわしたこんなやりとりからだった。

ベタ打ちメールがどんなメールなのかわたしは知らなかった。

「普通のメールですよ。記者だってメールの画面に文書をそのまま書いて同僚に送るでしょ。画面にベタベタ打ち込むからベタ打ちメール」

 それがどうして問題になるのだろうか。

「わからない? 飲み会の連絡とかどうでもいいメールも多いんだけど、大事なことも書かれるようになっているからね」

 たとえば?

「言いづらいけど、政治家とのやりとりとか」

 つまり、それが公文書にされていない。

「5年ぐらい前までは、公用パソコンで報告書をつくったら、紙にして上司に回していた。それがいつの間にか『報告書は電子メールに添付して回せばいいですよね』となり、今では『添付文書もわざわざつくる必要はないですよね』となっている。ベタ打ちして送信したら、それでおしまい。特に若い職員はメール世代だし、上司から『そんなの聞いてないぞ』と言われるのが嫌だから、証拠が残るメールのほうがいいみたいだね」

それから数週間たった17年6月15日、文科省が1通の公用メールを公表した。安倍首相の親友が理事長を務める学校法人「加計学園」をめぐる問題の調査で見つかったものだった。

学園は愛媛県今治市での獣医学部開設を目指していたが、実現には今治市が国家戦略特区に選ばれる必要があった。公表されたメールは、特区担当の内閣府から、大学担当の文科省に送信されたもので、特区の選定条件が修正されたと書かれていた。この修正により、今治市に決定する流れができる。

「内々に共有します」という書き出しで始まるメールにはこう記されていた。

「(修正の)指示は(内閣府の)藤原審議官曰く、官邸の萩生田副長官からあったようです」

萩生田光一官房副長官のことで、安倍首相の側近中の側近。そもそも、文科省の調査は、学園の計画の早期実現が「総理のご意向」と書かれた文書が同省から流出したのがきっかけだった。この‶萩生田メール″の存在によって、学園と手を組んで特区を申請した今治市が優遇されたのではないかという見方がさらに強まることになる。

「あれがまさに問題のベタ打ちメール。今の報告書のほぼすべてがこういうふうにメールに直接書かれているわけ。どうせ、課長補佐あたりが、事実を隠ぺいしたら許さないぞという勢いで出したんだよ。普通、あんなのは表に出さないから。勇気あるねえ」

Aの場合、国会議員のことが書かれたメールをどうしているのだろう。

「個人用のフォルダーに保存している。仮にだよ、わたしが個人的に保管しているこの手のメールがだれかに特定されて、情報公開請求されたとする。でも、『もう消したからありません』とウソをつくよ。絶対にバレないから。個人的に保管しているメールは強制捜査でもない限り、調べられることはない。黙っていればわからない」

萩生田氏の「指示だ」と書かれていたメールは、加計学園問題が注目されなければ、闇に葬られた可能性が高かった。そういうことなのだろうか。

「当然でしょう。だいたいメールが公文書になると思っている公務員なんていない。わたしもそうだから。メールは膨大にある。どういうメールが公文書に当たるのかルールで決めてもらわないと、正直言って選びようがない。それに、上司に『さっき送ったメール、公文書にしておきます』って言ったら、『お前、大丈夫か』って変な目で見られちゃう」

「極端にいえば、メールなんて電話で話すのと同じだから。文書じゃない。官僚はみんなそんなふうに思っている」

<毎日新聞連載「公文書クライシス」の書籍化『公文書危機 闇に葬られた記録』(毎日新聞取材班著、毎日新聞出版刊、6月2日発売予定)より、一部を抜粋>

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