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コロナショックが直撃!三菱商事を抜き「伊藤忠」が総合商社1位になる日=種市房子

     総合商社2位の伊藤忠商事の時価総額が、同1位の三菱商事に肉薄している。

     伊藤忠の株価上昇と三菱商事の株価低迷が時価総額接近の背景にある。伊藤忠の株価はコロナショックで世界同時株安に見舞われた3月に急落したものの、その後持ち直し、5月21日時点で前年同期比10%高。これに対して、三菱商事株は同16%低い。5月29日には三菱商事が自社株買いした約1億株を消却し、発行済み株式数が減る。このため、翌営業日の6月1日には、伊藤忠が時価総額で業界1位に就く可能性も出ている。

     両社の発行済み株式数は、三菱商事が約15億9007万株、伊藤忠が15億8488万株。時価総額(発行済み株式数×株価)は5月21日終値を用いれば、三菱商事約3兆8384億円、伊藤忠3兆5485億円で、三菱商事が上回る。

    時価総額トップが入れ替わる日

     しかし、業界関係者が注目するのが、三菱商事による自社株消却が終わった後の時価総額だ。

     三菱商事は株主還元の一環として、2019年5月~20年4月に約3000億円をかけて自社株買いを実施。約1億935万株を取得した。このうち、将来、ストックオプションなどに用いることを想定した分を除き、約1億435万株を5月29日に消却する。1株当たりの利益を高めるという株主還元のセオリーに沿った措置だ。自己株消却後の発行済み株式数は約14億8572万株に減る。両社の株価推移によっては、伊藤忠が逆転する可能性も出てくる。

     業界で時価総額トップが入れ替わったのは、14年にビール業界で、アサヒグループホールディングスがキリンホールディングスを抜いたことが記憶に新しい。

     ただし、伊藤忠が仮にトップになったとしても、形式的な時価総額に過ぎない。

     実は伊藤忠も積極的に自己株買いを行ってきたが消却はしていない。同社の基本方針も、取得した自己株は消却するが「現在は、経営環境の激変を考慮し、守りの財務のために総合的に判断して消却していない」(同社広報)という。

     新型コロナウイルスの影響で経営環境が見えにくいなか、M&A(企業の合併・買収)の際に、借金をするよりは手元の自己株を使うことが財務を傷めなくて済むという算段だ。

     このように、伊藤忠は自己株を多く含んでいるだけ、発行済み株式数が多い。しかし、市場で重視されるのは、あくまでも市中に流通する株式数での時価総額だ。自己株式を除いた発行済み株式数ベースの時価総額ならば、三菱商事がトップだ。

    対照的な三菱と伊藤忠の「稼ぎ方」

    三菱商事の垣内威彦社長
    三菱商事の垣内威彦社長

     ただし、三菱商事もうかうかしてはいられない。20年3月期決算は、三菱商事が5353億円(前年比9.4%減)で首位を維持したものの、伊藤忠が過去最高益の5013億円を記録し、肉薄した。

     両社の収益構造は対照的だ。三菱商事は、年度末期の20年1~3月に3ケタ億円の一過性利益を複数計上した。中でも大きかったのは、チリ銅事業「AAS(アングロ・アメリカン・スール)」関連の767億円だ。AASは16年3月期に2700億円の減損を出し、三菱商事が赤字に転落する主因となった事業だ。

     これが今になって利益をもたらしたのは、税法上は損失認定の要件が厳しく、会計より処理が遅れるからだ。減損当時は税法上の損金として認められなかったが、その後、AASを保有する子会社の清算が確実になり、損金算入の日程が具体化できた。減損当時、実質的に“前払い”した税金分が今後控除されるものとして、その分を資産計上した。

     このほか、海外食品事業売却益143億円(事業名は非公表)、オランダのエネルギー会社「エネコ」の子会社化(20年3月発表)に当たり事業評価した評価益151億円など大玉の一過性利益が目を引く。

     対して、伊藤忠は、年間利益20億円以下の事業会社が7割を占め、コツコツと利益を積み重ねてきた。

    伊藤忠商事の岡藤正広会長
    伊藤忠商事の岡藤正広会長

    侮れない三菱商事の“底力”

     19年度第3四半期(19年4~12月)決算では、伊藤忠が三菱商事をリードしていた。

     ただ業界内では、三菱商事は大規模な一過性利益を計上して逆転できる、との見方があり、実際、そのような結果となった。これも、元々優良資産を持っている三菱商事の強さだ。

     決算は首位に及ばなかった伊藤忠だが、形式上の時価総額では首位が見えてきた。

     ただ、その伊藤忠自身も重視しているのは自己株を除いた実質的な時価総額だ。

     コロナで海外・国内双方の事業に不確定要素も多いなか、両社の主戦場は実質的な時価総額に移る。

    (週刊エコノミスト・種市房子)

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