トップに聞く「コロナ後の世界」 北尾吉孝・SBIホールディングス社長 金融世界の変化、一段と加速する
金融の世界は、コロナショックで変化に拍車が掛かった。大きいのは、パンデミックを契機に、顧客の意識がますますデジタルに向かったこと。当社がオンライン証券を開業してから今年3月末に証券口座数で野村証券を抜くのに約20年を要したが、今後、こうした業界や産業構造の変化は一段とスピードを増す。
資産運用についてもクローズアップされてくる。今回のコロナで個人商店や飲食業は皆、活動がストップした。おカネの大切さが認識され、資産形成に関心を持たざるを得ない状況になっている。
これは、当社の地銀戦略にも関わってくる。地銀の決算を見れば、運用がうまくないことがわかる。だが、コロナ前夜に当社に運用を委託した地銀はみな、運用成績が良い。地域金融機関等から預かったお金は1兆円を超えた。
地方創生に直接関与
これまで四つの地銀に資本参加したが、これからは地域金融機関だけでなく、地域経済の活性化にも直接関与していく。そのため、地方創生を推進する「地方創生パートナーズ」を設立する。さまざまな民間企業に参加してもらい、政府系も巻き込んで地方創生の一助になっていこうと考えている。
地域で良い商品やおいしいものがあれば、当社の投資先であるBASE社を通じ、ネットショップ開設のプラットフォームを提供する。金融機関だけでなく、地域全体でITリテラシーを高めていく。当社はそうした技術の目利きと導入のけん引役を果たす。
私は「ネオバンク」ということを常に言っている。これは、銀行の持っている機能をアンバンドル(解体)し、API連携を通じてさまざまなフィンテックベンチャー等の有するサービスを当社の顧客が利用できるようにするものだ。当社グループの銀行は300以上の銀行サービスでAPIを開放している。銀行のファンクション(機能)は大事だが、銀行そのものはいらないというのが考え方だ。
今回の局面で一番ありがたいのは、アセットの値段が全部安くなったこと。新たにフィンテックやAI、5G、ヘルスケア分野などに投資する最大1000億円規模のベンチャーファンドを設定する。また、M&A(合併・買収)をアグレッシブにやっていく。運用力を強化するために、「ひふみ投信」のレオス・キャピタルワークスを買収したのもその一環だ。
1〜2年かかるかもしれないが、人類の英知は必ずワクチンを作る。それが出てくれば、経済の回復は時間の問題だ。だから、コロナは大チャンスだ。もちろん、景気は当面悪くなる。雇用が一時的に減っていくのもやむを得ない。しかし、戦争や震災と違って生産能力は落ちていない。コロナショックで、サプライチェーンが中国に一極集中している問題が浮き彫りになったのだから、原材料や部品の供給基地を日本に作れば、新たなビジネス機会や雇用の創出にもつながる。
業務提携した三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)は、莫大(ばくだい)な顧客基盤があり、当社には非常なメリットがある。一例で言えば、当社の出資先である米R3社のブロックチェーン技術「コルダ」を使った貿易金融分野でのサービスを加速する。私はこれからは、さまざまな業態にわたる多くの企業や企業グループと提携する「オープンアライアンス」という考え方が大切だと思っている。
(北尾吉孝・SBIホールディングス社長)
(構成=稲留正英・編集部)