経済・企業 令和の金融再編
地銀再生による「第4のメガバンク」は「国家プロジェクト」だ=北尾吉孝(SBIホールディングス社長)
老後資金2000万円問題で年金や老後の生活に関心が高まり、資産運用の重要性が脚光を浴びるなかで、コロナショックはその関心の高まりをさらに加速させ、日本人の貯蓄性向に大きな影響を与えるだろう。貯蓄から資産形成への動きが活発化する。
SBIグループが資産運用するアセットは約3兆円、地域金融機関などから預かってるお金はすでに1兆円を超えている。すでに資本提携した4銀行に限らず、コロナ禍の前後にSBIに資産運用の委託を決めたところはすべてパフォーマンスが良くなっている。島根銀行は620億円の運用資産を当社に預けた結果、2020年3月期の下半期の経常利益はプラスに転じた。
かつてSBIグループの子会社が運営するSBI・LBOファンドが民事再生法適用の第1号投資案件に投資を行い、川崎電気(現・かわでん)の再生に携わった。
02年に民事再生法を申請した川崎電気は、山形県で分電盤や配電盤を作っていた会社で、スポンサー有力候補の外資系企業が工場の閉鎖や人材削減を要求した。私は工場も製品も品質も従業員も技術のレベルも何も悪くなく、同社の製品に対する需要もあり、唯一の問題はバブル経済の時に踊らされた経営者にあるのだから、すぐに再建できると判断した。
実際に工場も売らず人も切らずに1年で再生を終え、その後すぐに再上場も果たした。
7割の地銀が減益か赤字
地銀は20年3月期で7割が減益か赤字となっている。地域の中小企業のなかにはコロナショックで大きな痛手を被り、倒産寸前のところも多い。地銀に体力がなく地元企業を助けられない場合、我々の持つ事業会社の再生ノウハウを地銀にも使ってもらいたい。
我々は地域金融機関の収益力向上だけでなく、地方創生という国家プロジェクトの一助になりたい。
新会社「地方創生パートナーズ」を設立し、志を同じくする各パートナーから役員を1人ずつ派遣してもらう。そこには地方創生の尽力されてこられた複数の外部のアドバイザーにも入ってもらい、英知を結集して地方創生を推進するために、戦略指針の策定やさまざまなプロジェクトの企画立案を行う。民主的に事業運営を行う計画だ。
SBI地方創生サービシーズと、SBI地方創生投融資という二つの会社も傘下に作って、それぞれの調達額を300億円と100億円の規模にする。
地方創生パートナーズへの参加パートナーには資金貢献に関わりなく、二つの傘下会社に役員を送る権利を与えるつもりだ。民間企業と一緒になって、場合によっては政府や地方公共団体も巻き込んで、地方創生を推進していこうと考えている。
これらと別にSBI地銀ホールディングスを設立する。従来から提唱している「第4のメガバンク構想」で参加各行に互助の精神を発揮してもらい、SBIの事業として推進していく。全体で共通利用できるシステムを開発することで、開発コストを抑え、地銀にとって負担となっているシステにかかわる固定費用を変動費用に変えていく。資産運用はできるだけ当社のリソースを活用してもらう。
10行を軸に地銀連合
資本業務提携を結ぶ地域金融機関は10行程度を軸に考えている。今後新設する三つの会社とも協力し合って地方創生に取り組んだ時、大きな成果が期待できると思う。
金融機関だけでなく地域全体のITリテラシーも高めていきたい。地域の産業活性化も大きな課題だ。地方の商店や特産品を作っている会社をどう全国展開させるのかに力を注いでいく。例えば、我々の投資先にはBASEというeコマース(EC、電子商取引)のプラットフォームを提供できるベンチャー企業がある。初期費用なしでECの立ち上げをサポートできる会社だ。こうした企業の技術を活用する。
地方創生に役立つと思われる新しい技術を持ったベンチャー企業がどんどん誕生してきている。彼らの持つ知恵や技術を集めて活用する。我々が目利きを行い、技術の地域への導入のけん引役を果たすことで、地方創生に役立てていきたい。
政府、官僚OBとも共闘する
自民党の金融プロジェクトチームの異業種参入を可能とする規制緩和の動きは大いに歓迎だ。金融への異業種参入はどんどんやったらよいのではないか。我々も地方創生を考えているわけだから協力して一緒にやっていけばよい。
元金融庁長官の五味広文さんが福島銀行の社外取締役に就任したが、私は、「SBIの意向など全く意識することなく、福島銀行を良くするために、プラスになると思われることは独自の判断でやっていただければ」と申し上げた。
財務省にしろ、金融庁にしろ、役所には非常に優秀な方がおられる。だけど多くの大企業は、退官後の官僚を相談役や顧問、監査役で採用している。当社は社長や特定の役割を担ってくださいとお願いしている。根本的に人材の活用の仕方が違う。
(構成=稲留正英・編集部)