経済・企業地銀の悲鳴

新型コロナで融資希望殺到 公的資金注入に思惑交錯=村田晋一郎/吉脇丈志

    新型コロナウイルスの感染拡大で人通りがほとんど途絶えた東京・浅草(4月25日) (Bloomberg)
    新型コロナウイルスの感染拡大で人通りがほとんど途絶えた東京・浅草(4月25日) (Bloomberg)

     低金利による利ざやの縮小など、厳しい経営環境に置かれていた地銀が、新型コロナウイルス禍でさらなる苦境に追い込まれている。人の移動が自粛され、地域の経済活動が大幅に停滞。資金繰りに窮する取引先から新規融資などの申し込みが殺到している。地域経済の停滞が長引けば、地銀の経営にも大きな打撃となって跳ね返ってくることは確実だ。(地銀の悲鳴)

     地銀は今、新型コロナの影響を受ける地域経済にどう対応しようとしているのか。編集部はそれを探るため、地銀全102行に対して5月下旬、独自アンケートを実施し、新型コロナ関連の新規融資の申込件数や申込金額、また実際に新規融資を実行した件数、金額などを尋ねた。このうち77行が回答を寄せ、新規融資の申込件数と実行件数を回答した53行の結果をまとめたのが17ページの表だ。

     表の数値を見るうえでは、何をもって新型コロナ関連の新規融資とするかは各行の判断であり、また集計期間も異なるため、数字の多寡で単純に比較することはできない。ただ、これを見ると、地銀各行に資金繰りの要望が数多く押し寄せており、大きな負荷がのしかかっていることが見て取れる。

    取引先の3割相当

     例えば、ほくほくフィナンシャルグループ(FG)の北陸銀行では、2月17日~5月15日の新規融資の申し込みは6259件にのぼるが、今年3月末の事業性融資の取引先数(2万4828先)の25%に相当する件数だ。西日本シティ銀行の新規融資の申し込み1万669件(3月1日~5月22日)も同様に取引先数の25%に相当するほか、南都銀行では3割を超えている。

     新規融資の申込金額は、千葉銀行で総額4461億円と3月末の事業性融資の残高6兆1553億円の7%に相当する規模で、このうち2584億円の融資を実行した。滋賀銀行でも総額2459億円の新規融資の申し込みがあり、3月末の事業性融資の残高に対して1割を超えている。既存の貸し出しの返済期間を延ばしたりする融資条件の変更の申し込みも各行に押し寄せている。

     逼迫(ひっぱく)する取引先の資金繰りに対して、百五銀行が大型連休中の週末の5月2、3日、法人窓口のある全92店に休日相談窓口を開くなど、休日返上で対応している地銀も少なくない。また、七十七銀行は融資条件の変更手数料を無料としたほか、池田泉州銀行は融資申込書類を簡素化したり、返済条件の変更は支店長の権限で可能とするなど、現場権限拡大に動いている。

    平均下回る37行

    (注)ROAは「コア業務純益(除く投信解約損益÷総資産)」、自己資本比率は自己資本比率告示に定める自己資本比率(国際統一基準行はそ総自己資本比率).4象限は地域銀行平均によって区分けしたもの (出所)各行決算資料を基に江戸川大学・杉山敏啓教授作成
    (注)ROAは「コア業務純益(除く投信解約損益÷総資産)」、自己資本比率は自己資本比率告示に定める自己資本比率(国際統一基準行はそ総自己資本比率).4象限は地域銀行平均によって区分けしたもの (出所)各行決算資料を基に江戸川大学・杉山敏啓教授作成

     しかし、コロナ禍以前に、もともと地銀の経営状況は苦しい状況に置かれていた。日銀のマイナス金利政策もあって本業の貸し出しの利ざやが縮小し、人口減少も追い打ちをかける。各行は生き残りをかけて経費削減などに取り組み、他行との統合など再編も視野に入れる地銀も少なくない。そうした中で突如、資金繰りの需要が急増した形だが、地銀は果たしてどこまで応えられるのか。

     地銀経営に詳しい江戸川大学の杉山敏啓教授は、地銀の実力を「基礎的収益力」(ROA=総資産利益率)と「ストレス耐久力」(自己資本比率)で分析する。自己資本とそれを蓄積する元手となる収益が、大きなショックが生じた際に経営の安定性を維持する緩衝材の役割を担うためだ。図では、地銀全102行の2020年3月期単体の数値を基に、収益力と耐久力の分布を示した。

     気になるのは、図の左下(第3象限)に位置する37行で、収益力、耐久力がいずれも業界平均を下回る。杉山氏は、「自己資本比率が充実している銀行(図の右上の第1象限、右下の第4象限)と比較して、収益力も耐久力も低い銀行(第3象限)は、コロナ渦で増加する取引先の資金繰りニーズと信用リスクの高まりに対応しきれるのかが懸念される」と指摘する。

    「取引先つぶすな」

     地域経済の命綱を握る地銀の腰が引けることを懸念して、政府は金融機関に公的資金を注入しやすくする仕組みづくりに動いた。公的資金の注入枠を現在の12兆円から15兆円に拡大したうえで、22年3月までの申請期限を26年3月へと延長する。金融機能強化法の改正案を6月8日に閣議決定し、今国会に提出。今夏以降の施行を目指している。

     中でも注目されるのが、公的資金の申請条件を大幅に緩和することだ。公的資金の申請時にはこれまで収益性や効率性の目標が必要とされ、経営陣の責任も問われたが、改正案ではこれらが不要になる。金融庁は「あらかじめ、将来にわたって金融システムの安定に万全を期す」ことを改正案提出の狙いとしたが、要は地銀や信用金庫など地域金融機関に対し「取引先をつぶすな」というメッセージだ。

     ただ、地銀側には公的資金に対し、いつ手のひらを返して経営責任を問われるか分からないという警戒感も漂う。新型コロナの感染拡大を受けた緊急事態宣言は5月25日、約1カ月半ぶりに全面解除されたが、コロナ禍以前の経済状態の回復には程遠く、新型コロナの第2波、第3波の流行の懸念も残る。先の見えない消耗戦に突入し、地銀から大きな悲鳴が聞こえてくるようだ。

    地銀各行の新型コロナウイルス対応の新規融資件数・金額と条件変更の件数・金額の表はこちら(有料会員限定) 

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    (村田晋一郎・編集部)

    (吉脇丈志・編集部)

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