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マーケット・金融 地銀の悲鳴

地銀の経営体力 低収益性に貸し出し劣化 コロナで迎える“重大局面”=大槻奈那

(出所)ブルームバーグ。2020年5月末終値ベース
(出所)ブルームバーグ。2020年5月末終値ベース

 新型コロナウイルス感染拡大による経営へのマイナス影響が大きい業界を選ぶとすれば、銀行業界もその中の一つに入るだろう。実際、2020年3月の最安値からの株価の回復は、人々の行動制限の影響をモロに受ける運輸や鉄鉱業などに次ぐ弱さだ(図1)。

 しかし、20年3月期の業績はそこまでひどくなかった。地銀全体の経常利益は12%の減益だったが、その前の期の減益率は17%だったため、むしろ悪化が緩和されたくらいだ。相変わらず、利ざや低下(0・04%減程度)による資金利益の減少(3%減程度)が主な減益要因で、もう一つのコア業務である手数料収入などの役務取引等利益は微減程度と善戦した。与信費用(貸し倒れ引当金や貸し出し償却などの不良債権処理費用)も、新型コロナの影響がまだ明らかではなかったことから、さほど増えなかった。

 市場が懸念しているのは、こうした実績にはまだ表れていない、今後の見通しの暗さだろう。上場企業の6割が予想開示を見送る中、地銀セクターは上場する78社のうち3社を除いて会社予想を開示しており、比較的頑張って開示した印象だ。ところが、銀行が予想する経常利益の減益幅は1割程度と、前の期と変わらないレベルの悪化度合いとしている。与信費用の増加も微減程度だ。これだけみると、これまでの景気の減速の延長線上にあるかのようにみえる。(地銀の悲鳴)

支援の実行率は4割

 しかし、足元で起こっていることはそんな悠長な感じでは全くない。地銀には今、取引先などから新型コロナによる支援融資の申し込みが殺到しているからだ。

『週刊エコノミスト』が今回、全国の地域銀行(第一地銀、第二地銀)に対して行ったアンケートを基に、貸出残高に対する申し込みの割合が一定だと仮定して都市銀行、第一・第二地銀を合わせた全国銀行ベースの申込総額を試算すると11兆円を超える。しかもまだその勢いは止まらないという。

 地銀の貸出総額260兆円の平均期間を4年程度と仮定すると、通常の融資の借り換えだけでも、月々5兆円程度あるはずだ。それでなくても、地銀の事務方の人数は効率化の名の下に減少気味だ。営業店や審査部の混乱ぶりは推して知るべしである。

(注)金額ベースと件数ベースの両方の実行額を開示した銀行のみ (出所)編集部アンケートを基に編集部作成
(注)金額ベースと件数ベースの両方の実行額を開示した銀行のみ (出所)編集部アンケートを基に編集部作成

 結果として、申し込みに対する融資実行比率は平均で4割前後にとどまる。これを件数ベースと金額ベースの実行率で比べると、金額ベースの方が高い銀行は件数ベースの方が高い銀行の約2・6倍になる(図2)。中には、金額ベースで9割以上の融資が実行されているのに、件数ベースでは3割程度しか実行できていない銀行もみられた。これらは、金額が大きい案件が優先的に承認・実行されている可能性を示している。

 また、支援融資申込額の純資産に対する割合をみると、高いところは何と90%近い。もちろん、これらの支援融資の中身は、比較的大規模な企業からの念のためのものも含まれていて、リスクが高いものばかりではない。

 しかし、融資の金利は、無利子無担保のものなど、銀行にとってはリスクに見合わない貸し出しも含まれているとみられる。仮に純資産の80%に当たる金額の支援融資を行った銀行で、その2割が貸し倒れた場合、他の利益を考慮しなければ、銀行の純資産は1割以上毀損(きそん)することになる。

(出所)編集部アンケートより編集部作成
(出所)編集部アンケートより編集部作成

 こうしたリスクを意識してのことか、申込額の純資産に対する比率が高い銀行では実行率が若干低めになっている(図3)。つまり、資本に余裕がない銀行ほど、手続きに手間取っているか、融資承認に慎重になっている可能性がある。

 ほとんどの地銀は“地元に寄り添う”ことを掲げている。本来ならば、中小零細企業のために働くことがミッションであるから、このような傾向は本意ではないだろう。しかし、さまざまな意味で今回の新型コロナ対応には余裕がない。それを痛感した地銀は、これから貸し倒れ引当金を積み増すとともに、資本も維持・向上する必要があると考えるだろう。

 このため、21年3月期以降の与信費用は、現時点での計画を上回る可能性が高いと予想される。しかも、災害大国日本では、今回で地元支援が終わることはあり得ない。むしろこれからは、融資にとどまらず、中小企業に対する資本性資金の提供など、よりディープな支援が求められるかもしれない。

資本は着実に増加も…

 そんなコロナショックに地銀は持ちこたえられるだろうか。

 幸い、地銀の株主資本額は、リーマン・ショック(08年)後の10年間で5・6兆円、43%ほど増加している。少額ずつでも毎年利益を積み上げてきた結果だ。ただ、その分、貸し出しなどの増加によって資産も増えており、これまではそのリスクを抑制することで健全性の維持向上を図ってきた。

 しかし、新型コロナによる支援融資で、抑えてきた資産リスクが一気に膨張しつつある。これまでも地銀の存亡については収益性の低さが課題とされてきたが、それに貸し出しの質の悪化という財務リスクが加わった。

 金融庁は先手を打って公的資金の投入条件を緩和したので、倒産リスクはまずないと考えていい。しかし、それはあくまでバックストップ(安全策)であり、地銀の明るい将来を意味するわけではない。地銀の経営者は、コロナ支援に奔走しつつ、今後の生き残りの戦略立案を加速しなければならない。

 地銀経営は、リスク拡大の“重大局面”に差し掛かっているといえよう。

(大槻奈那、マネックス証券チーフ・アナリスト)

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