経済・企業地銀の悲鳴

リモートワークの普及で地銀店舗の統廃合が加速=高橋克英(マリブジャパン代表)

長崎市では今年10月に合併を予定する十八銀行の思案橋視点(右)と親和銀行の浜町支店が隣接する
長崎市では今年10月に合併を予定する十八銀行の思案橋視点(右)と親和銀行の浜町支店が隣接する

 地銀や第二地銀が相次いで店舗の削減計画を発表している。長引く低金利など収益環境が悪化する中で、賃料などコストがかかる店舗が経営の重荷となっているためだ。新型コロナウイルス禍も追い打ちをかけ、人の密集などを避けるうえでも今後、店舗の統廃合は加速する可能性がある。ただ、各行ともコスト削減の観点からの統廃合が中心で、肝心の店舗の意義を問い直す作業は置き去りの感が否めない。

 店舗削減計画で一足先を進むのがメガバンクだ。三菱UFJ銀行は今年5月、2017年度末の515店舗のうち23年度までに4割減とする方針を発表した。従来計画では2割減だったのが、昨年は35%減とする計画を示し、さらに上積みした形となった。三井住友銀行やみずほ銀行でも、小型店舗への置き換えや店舗削減が急ピッチで進んでいる。

 地銀でも店舗削減が進んでいるが、主流なのは対象店舗を近隣の店舗内に移転集約するものの、店名や口座番号などはそのまま引き継ぐ店舗内店舗(ブランチ・イン・ブランチ)形式だ。地銀上位行である横浜銀行や静岡銀行でも実施しているほか、今年10月に合併予定のふくおかフィナンシャルグループ(FG)傘下の十八銀行と親和銀行では、22年3月末までに71拠点を店舗内店舗方式で削減して114拠点とする。

 店舗内店舗による再編だけでなく、店舗の営業日数削減にまで踏み込んだのは南都銀行だ。金融庁が18年に銀行法施行令などを改正し、平日でも休業できるようにしたことを受け、今年3月末以降に4店舗で隔日営業を導入した。また、他に4店舗では1時間の昼休み(昼休業)を開始したほか、南都銀行の店舗がない地域では郵便局に共同窓口を設置したり、南都銀行のATM(現金自動受払機)を設置することでカバーする。

 銀行をまたいだ共同店舗の動きも広がっている。福井銀行では今年5月、小松支店内に福邦銀行の小松支店が移転オープンした。路面店舗1階に2行が同居する全国初の取り組みという。共同店舗は、千葉銀行と武蔵野銀行の池袋支店、ほくほくFG傘下の2行(北陸銀行、北海道銀行)の東京支店、フィディアHD傘下の2行(荘内銀行、北都銀行)と東北銀行の計3行による東京支店でも実現している。

千葉銀などに成功例

 なお、地銀が進める店舗内店舗方式は、支店の統廃合ではなく、法律的には「店舗移転」の扱いとなり、支店コードも残るため、表面上の店舗数は変わらないことになる。このため、地銀・第二地銀の店舗数合計は1万577店舗(09年度)から1万443店舗(18年度)と、約10年前から134店舗しか減っていない(金融ジャーナル社)。

 もっとも、店舗新設により成功している事例もある。千葉銀行では、都内に4拠点を新設しており、4拠点の貸出残高は2036億円(19年度末)と前年度末比337億円も増加している。阿波銀行も都内に4店舗を構え、中小企業向け貸し出しを中心に、関東地区の貸出平均残高は2359億円(同)と101億円増加している。

 ただ、そもそもなぜ地銀が店舗の統廃合を進めているのか。「人口減少にデジタル化やライフスタイルの変化により、来店客数が減ってきている」と、まるでひとごとのように地銀トップの多くが語っているが、店舗にかかるコスト以上に収益を上げられなくなったことが一番の要因であり、裏返せば利用者にとって魅力的な商品・サービスを用意できなかったということだ。

 利用者にとって銀行の店舗は、手続きなどで長く待たされる場であり、ローンや投資信託などの金融商品も、商品性が複雑だったり手数料が高かったりし、顧客本位と呼べる商品やサービスに乏しかった。利用者にとって「できれば行きたくない場」であり、ネットバンキングなどが広がるにつれ、わざわざ行かなくてもすむようになったのが現実だ。

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、資金繰りなどを銀行に相談したいと考える利用者は増えた。その一方、行員の安全と業務継続を両立させるため、銀行側はテレワークの導入や交代勤務、営業店の昼休みを導入し、ネットバンキングへのシフトを促している。新型コロナが理由とはいえ、「銀行に不要不急で来ないでほしい」というメッセージは、優良顧客・潜在顧客を自らシャットダウンしていることになる。

 しかも、地銀の顧客がコロナ禍で気付いてしまったことがある。異業種などから参入するネット専業の金融機関の優位性、危機時の政府系金融の有用性、そして身近にある信用金庫やJAバンクなどの他の地域金融機関の利便性だ。この先、融資や金融商品販売、預金・決済・送金といった地銀の店舗経由の主要ビジネスは、こうした異業種や競合金融機関による代替が加速することになるだろう。

ネット銀と大きな差

 ふくおかFGが地銀で初めてネット専業の「みんなの銀行」の設立を予定するなど、この先、地銀によるネット子銀行の設立や転換が続く可能性もある。方向性は正しいが、既存銀行の店舗がそのまま残れば、グループ全体では収益性の足を引っ張ることになる。仮に、思い切って店舗を半減したところで、店舗がなく余剰人員もいないネット銀行とのコストの差は大きい。

 地銀は今、店舗をゼロとして、ネット銀行に転換するぐらいのドラスチックな経営判断が求められているが、現実問題としてそれは難しい。既存の店舗や人員をすぐには削減できないのであれば、経過措置として本店または基幹店舗以外の残りの既存店舗を、タブレットなどを活用しながら、資産運用など外訪営業員や在宅勤務者のための事務所とすることも考えられる。地銀は公的資金を注入する制度などもあり、破綻の可能性は極めて低い。余裕がある間に抜本策を取らないと、利用者に見限られることになる。

(高橋克英・マリブジャパン代表)

(本誌初出 店舗は必要? 低収益で加速する統廃合 根本から問われる存在意義=高橋克英 2020・6・23)

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