国際・政治東奔政走

国会から逃げて「中露に接近」 安倍外交に国際社会から冷ややかな目線=平田崇浩(毎日新聞世論調査室長兼論説委員)

    「戦後日本外交の総決算」を掲げてきたが……(2019年6月、大阪府で開かれたサミットで) (Bloomberg)
    「戦後日本外交の総決算」を掲げてきたが……(2019年6月、大阪府で開かれたサミットで) (Bloomberg)

    「外交の安倍」の看板はもはや色あせた。新型コロナウイルスが世界秩序を大きく揺さぶる中、アジアの自由主義陣営のリーダーとして存在感を示すどころか、レームダック(死に体)化した政権の維持にきゅうきゅうとしているのが安倍晋三首相の現状だ。

     こんな形で6月17日の通常国会会期末を迎えることになるとは考えてもいなかっただろう。コロナ対応で失態が相次ぎ、危機管理能力に疑問符がついた。自粛生活の苦境にあえぐ国民の救済より、政権に都合の良い検察幹部の定年延長に執心した「保身」イメージが内閣支持率の急落も招いた。

    「総決算」の残り時間

     コロナ感染者の治療を引き受けた医療現場が防護具の不足と深刻な経営難に苦しんでいるのに、政権に近い企業は持続化給付金の不透明な業務委託を請け負って潤う構図も政治不信を増幅させる。日本のコロナ感染を抑止してきたのは、医療現場の献身と国民の自助努力であって、政治は足を引っ張っているだけではないか、と。

     このまま国会を開いていても野党からコロナ対策の問題点を突かれるばかりだ。感染拡大の第2波に備えて第3次補正予算案の検討に着手するのが筋だが、とにかく早く国会を閉じたい。第2次補正予算に予備費を10兆円積んでおいて閉会中にばらまけば、支持率回復が図れるかもしれない──。

     国会軽視も甚だしいが、こんななりふり構わない安倍政権の姿を見て思い出されるのが2017年だ。森友・加計問題への批判で内閣支持率が低落する中、野党が強く反対する「共謀罪」法の採決を強行して国会を閉会させた。その後も憲法に基づく野党の国会開会要求を無視して欧州歴訪など外交を積極展開し、秋の衆院解散・総選挙で勝利して窮地を脱した。

     今回も秋の解散を予測する向きがある。だが、3年前と決定的に異なるのが安倍外交の地位低下だ。北朝鮮が弾道ミサイルの発射を繰り返し、米中の軍事衝突が懸念された17年。就任まもないトランプ米大統領と蜜月関係を築いた安倍首相は北朝鮮の脅威を「国難」と断じて衆院解散に踏み切ることができた。現状はどうか。

    「アフターコロナ」の覇権を争う米中のいずれにも、国際社会をまとめる指導力を期待するのは難しい。米国の同盟国であり、中国の隣国でもある日本が両者に自制を促し、世界秩序の安定に役割を果たすことができたらどれだけ素晴らしいか。しかし、今の安倍外交にそれを求めるのは酷だろう。

     コロナ禍が世界に拡大する前、外交・安全保障の専門家の間で懸念されていたのが、4月に予定されていた習近平中国国家主席の国賓来日と、ロシアが5月9日に予定していた対ドイツ戦勝75周年記念式典への首相出席だった。米国と対立する中露両国の対日接近に日米を離間させる狙いが透ける。

    「戦後日本外交の総決算」を掲げる首相に残された時間は少ない。東京五輪・パラリンピックの1年延期が決まるまでは、今夏の五輪を花道に勇退するシナリオも取り沙汰されていた。第二次大戦を戦った中露との外交成果を最長政権のレガシー(政治遺産)として残したい焦りもあっただろう。

    メッキがはがれる前に

     安倍外交がアベノミクスと比べてもそれなりに評価されてきたのは、単に在任期間が長いからというだけではない。自由・民主主義・市場経済・法の支配という戦後国際秩序の原則を重んじる姿勢が国際的な信頼感を高めてきた。米国主導の戦後秩序に挑戦する中露への接近がその信頼を損なうと首相は考えなかったのだろうか。

     振り返れば、再登板した当初の安倍首相は自国第一主義の先駆け的な存在として警戒感を持って国際社会に迎えられた。アベノミクスの主軸とされた異次元の金融緩和は通貨切り下げ競争を誘発する危険が指摘されていた。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の交渉参加に慎重姿勢を示したことも保護主義的な印象を与えた。

     一転してTPP交渉を主導したのは「成長戦略」の不足を海外市場の成長によって補う必要があったからだ。戦後秩序重視は信念というより経済優先の結果であり、外交総決算という発想からも戦後秩序への親和性はうかがえない。

     自国第一の地金を原則重視のメッキで覆い隠してきたのが安倍外交だとしても、そのまま政権を全うした方がいい。新型コロナの感染拡大で習氏来日もロシアの式典も延期されたことは、不幸中の幸いというほかない。

     さて、これからどうするか。まさか秋にも習氏来日などと考えていたりはしないだろう。

     中国はコロナ対応で欧米各国が混乱している隙(すき)を突くように、香港の民主化運動を力ずくで抑え込もうとしている。まさに民主主義を大原則とする戦後秩序への挑戦だ。香港の「1国2制度」は中国共産党政権が国際社会と交わした約束であり、これをウヤムヤにしていいとなれば、次は台湾の武力併合に動きかねない。

     コロナ後の世界が公正な秩序を構築できるのか、米中の新冷戦によるさらなる混沌(こんとん)が待ち受けるのか。岐路に立つ国際社会に安倍外交の居場所はあるのか。少なくとも、覇道を求める中国の国家主席を天皇陛下が国賓として接遇できる状況にはない。

    (平田崇浩・毎日新聞世論調査室長兼論説委員)

    (本誌初出 「安倍外交で支持率回復」の夢想 コロナ後の世界に居場所はあるか=平田崇浩 2020・6・23)

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