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コロナショックがついに普通のサラリーマンにも波及!大手企業のボーナス激減が相次ぐ=森永康平(経済アナリスト)【サンデー毎日】
新型コロナウイルスが日本経済に与えたダメージはとてつもなく大きい。
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民間エコノミストが見通す成長率予測の平均値は、4〜6月期に戦後最悪のマイナス21%(前期比、年率換算)。
企業の業績も悪化し、今夏のボーナス支給減が相次ぐ。実態を探った。
「国際線9割減」航空業界の深刻なムード
東京商工リサーチによると、業績を下方修正した上場企業839社のマイナス分は、売上高が6兆773億円、利益は3兆9503億円に及ぶ。
さらに3月期決算を発表した2341社のうち、半数を超える1392社は2021年3月期の業績予想を「未定」とした(6月10日現在)。業績悪化は極めて深刻だ。
最も大きな打撃を受けたのは航空会社だろう。全日空の幹部に事情を聞いた。
「新型コロナウイルスの感染拡大はいずれ収束し、産業界の業績は徐々に元に戻っていくでしょうが、航空業界は最後になる。なにしろ政府が100カ国以上から来日を禁止し、飛行機に乗る需要が極端に減っています。今は国際線を飛ばしても1路線につき週1往復、ガラガラどころじゃなくて国際線9割減便。『マジでここまできたか』という感じ。社内はかなり深刻なムードです」
6月12日に成立した20年度第2次補正予算は、企業に対する資本支援枠として約12兆円を計上した。
米国やドイツなどの政府は航空会社に1兆円以上の資本支援をしており、日本政府が検討する可能性は高い。実現すれば事実上の国有化だ。
「橋下徹元大阪市長は『国が自由を奪う以上、共産主義的な保護策をとるのは当然』と、基幹産業の国有化に言及しています。私はその通りだと思う。ただ、国の資本支援を受ければ、政府は何らかの条件を付けてくるでしょう。私の予想では、今、日本に10社ぐらいある航空会社のいくつかの経営を『全日空が引き受けろ』となるのではないか」
気になるのは今夏のボーナスだ。
全日空のボーナスは基本部分と昨年度の業績に連動する部分からなる。同社広報室に聞いた。
「基本部分については、昨年夏の支給額から半減という案を労働組合に提示をしていますが、業績連動部分は未定です」
前出の幹部はこれまでの支給水準を振り返って言う。
「私の記憶の中では、これほどボーナス支給額が少ないのは久方ぶりです。1990年代の終わり頃に1回あったきりではないか。ボーナス時に住宅ローンを多めに返済する契約をしていた社員が困っていました。当時、会社が社員に緊急融資をした覚えがあります」
影響大の企業では9%減も 本格的に影響が出るのは冬のボーナスから
ライバルの日本航空は全日空と同様の案を労組に提示し、交渉中。旅行業も似た状況だ。
とりわけ海外旅行がメインのエイチ・アイ・エスは「今夏のボーナスを支給しないことを決めた」とNHKなどが5月26日に報じている(同社広報室に確認の電話をしたが、「新型コロナの影響で対応できない」との音声が流れた)。
筆者が調べた大手企業の状況は表の通りだ。
ガソリンスタンド「ENEOS」を運営する会社の親会社、JXTGホールディングス(HD)は航空2社に次いで支給が大きく減る。1〜3月期決算で本業の儲もうけを示す営業利益が激減したことを反映しているのだろう。
同社の決算資料には「資源価格の下落」「航空燃料・ガソリンなど販売数量減少」といった文言が並ぶ。
メーカーも業績が悪化した会社を中心にボーナスが減る。
マクセルHDの決算資料には「新型コロナウイルスの影響により海外工場の製造・販売が停滞」とある。
ダイキン工業は1〜3月期の営業利益が25・7%減だった。
パナソニックに勤める40代の管理職に状況を聞いた。
「今夏のボーナス支給額については、今のところ何も情報はありません。2019年度のうち、新型コロナの影響があるのは2〜3月の2カ月だけなので、今夏の支給額はそんなに影響を被らないだろうと思っています。ただ、非組合員は多少減らされるかもしれません。減らされるとしたら10〜20%ぐらいではないかと思います」
同社東京広報室によれば、例年、昨年度の業績に連動して支給額を決めている。
「元々19年度は減収減益の事業計画で、ほぼ計画通りでした。コロナの影響による緊急の減額などはありません」(同社東京広報室)
小売業は明暗が分かれた。
松坂屋や大丸の親会社、J.フロント リテイリングは9%台の支給減。一方、スーパーマーケット「ライフ」を運営するライフコーポレーションは昨年夏より支給額が2%強増える。
営業自粛を強いられた百貨店と生活必需品を売るスーパーの違いがくっきりと反映された。
民間シンクタンク各社は今夏の支給額を前年同期比6・4〜9・2%減と予測している。
リーマン・ショックに端を発して金融危機が巻き起こった09年夏のボーナスは同9・7%減だった(厚生労働省「毎月勤労統計調査」、従業員5人以上の事業所)。
今夏のボーナス減少幅はリーマン・ショック級ということになる。
しかも新型コロナの影響がボーナスに反映されるのは、今夏より今冬や来夏になるだろう。
企業はボーナスを算出する際、「所定内給与(時間内)」と「支給月数」を掛け合わせて決めるのが通例だ。
みずほ総合研究所の嶋中由理子エコノミストはこう説明する。
「所定内給与は基本的には雇用の逼迫具合や春闘をはじめとする労使交渉によって決まります。一方、支給月数は企業の利益の影響を受けやすく、ボーナス支給額を左右するのです」
今夏のボーナスは昨年10月〜今年3月期の業績に基づいて、4月の段階である程度決まっている企業が多いという。つまり新型コロナの影響は完全には反映しない。
東日本大震災の後も11年夏より同年末のほうが、支給額の減少幅が大きかった。
震災後の業績悪化は年末ボーナスに反映されたことになる。
「今冬の年末ボーナスは前年より10〜15%減ってもおかしくない」(嶋中氏)
会社発表より支給額が減る理由
今夏の支給分に話を戻そう。
新型コロナの影響は事業規模や業種によって大きく異なる。
日本総研の小方尚子主任研究員の見方はこうだ。
「大企業の多くは夏のボーナスの支給額を決定済みです。一方、ダメージの大きかった宿泊や飲食関連の企業や中小企業は、支給額を減らすところが多くなると見られます」
新型コロナと関係がない事情が影響するという見方もある。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの丸山健太研究員が説明する。
「今夏のボーナスの1人当たり支給額は、制度要因によって押し上げられる側面があります」
政府の「働き方改革」の一環として、「同一労働同一賃金」を標榜するパートタイム・有期雇用労働法が4月に施行された。
企業に対し、「パートタイム労働者のボーナスがフルタイム労働者と均衡するように考慮して決めること」とする努力義務を課す。
「パートタイム労働者にもボーナスを支給する大企業が出てくる。この制度変更によって、従業員30人以上の事業所の1人当たり支給額は2・5%程度増えるとみられます」(丸山氏)
つまりはこういうことだ。今までボーナスをもらっていなかったパートタイムの人を含め「ボーナスを支給する事業所で働く労働者」として定義されていた。
今後、正社員などフルタイムの社員に対するボーナスの支給額が変化しなかったとしても、新たにパートタイムの人もボーナスを手にするようになれば、その企業が支給するボーナスの総額は増加し、ひいては1人当たり支給額も増加する。
つまり、1人当たり支給額が増加したとしても、正社員へのボーナス支給額が増加するわけではない。
今後、日本企業のボーナスはどう変わるのか。
「年俸制を採用する企業が増えていく可能性はあると考えています。しかし、年単位で賃金を決めてしまうと、かえって働く側のインセンティブを削ぐことになりがちです。だから会社と個人それぞれの業績に連動させたボーナスを支給する企業は引き続き多いだろうと考えています」(丸山氏)
人事制度に詳しい中央大の海老原嗣生客員教授は日本と欧米の給与システムを比べてこんな見方をする。
「日本のボーナス制度は欧米よりも優れていると考えています。日本のボーナスは基本的に決算に基づいて支払うものです。つまり会社の業績が悪ければ、ボーナス支給額を就業規則に記載した最低限まで下げることが可能。赤字であれば支払う必要はなく、会社にとっても大変都合がいい。もちろん人事査定の良かった従業員はボーナスを多くもらえるため、モチベーションを維持しやすい点もメリットでしょう」
中高年社員でも日々のスキルアップが欠かせない社会に
外資系金融機関は法人営業や投資銀行などの部署の従業員に対し、日本企業では考えられない高額のボーナスを支給すると聞く。
しかし海老原氏は外資系も甘くないと説く。
「役員や部長クラスになれば巨額のボーナスがもらえても、一般社員、それに日本の係長や課長に相当するアシスタントマネジャーのボーナスは低いのが一般的です」
ただし年功序列賃金体系、つまり年齢を増すごとに給与が上がっていく仕組みは変わりそうだという。
「女性が家を守り、男性が働いて家族を養うという夫婦分担が一般的だった時代、子どもが2人いる45歳の大企業社員なら、人事評価が低くても年収850万円ほどもらっていました。しかし共働きが一般的になった今、会社側は『そこまで年収が多くなくてもいいだろう』と考えるようになった。年功序列賃金体系は徐々に壊れているのです」(海老原氏)
年功序列の賃金体系が壊れていく中、私たちはどのように動けばいいのか。
キャリア開発に詳しい慶應義塾大大学院政策・メディア研究科の高橋俊介特任教授は、「今後は普段の行動習慣が将来の明暗を分ける」と指摘する。
高橋氏が挙げる行動習慣とは①今の仕事に主体性を持って取り組む②「自分にはこういう技能がある」と周知するセルフブランディング③自己投資―の三つだ。
①は上司や取引先から「あなたはどう考えるか」と聞かれた時、自分の考えをすぐに答えられる力のこと。
②は語学力やプログラミング能力といった自分の強みをすぐに列挙し、上司に発信できることだ。誇れる強みがない場合は③をする必要がある。
高橋氏が教える東京・丸の内の「慶應丸の内シティキャンパス」に自費で通学する50歳前後の会社員が少なくないという。自分のスキルアップを目指しながら、他業界に勤める人から刺激を受けようとする人が大勢いる。
一度会社に入れば、解雇されることもなく、毎年給与が上昇し、ボーナスがもらえる時代は終わりつつある。
日本企業は実力主義に静かに移行しているのだ。
もりなが・こうへい 1985年生まれ。証券会社や運用会社でアナリスト、ストラテジスト業務に従事した後の2018年、金融教育ベンチャー企業のマネネを創業した。近著に『MMTが日本を救う』(宝島社新書)がある