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河井克行・案里夫妻に1億5000万円を渡した安倍は「共犯」だ【サンデー毎日】
通常国会閉会の翌日、現職国会議員夫妻が公職選挙法違反容疑で逮捕された。
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2019年の参院選をめぐり、94人に現金約2570万円を配った大規模な買収容疑だ。
夫妻の足跡とともに、新人候補に破格の1億5000万円が提供された舞台裏とその責任を問う。
自民党広島県連と党本部が激突!広島でいったい何が起こったのか?
参院・広島選挙区は、定数4。
3年ごとに半数が改選されるため改選議席は2議席で、過去の参院選の多くは与野党で1議席ずつを分け合ってきた。
その〝慣習〞を打ち破ろうと自民党が2人の公認候補を擁立したのが、昨夏の参院選だ。
当選5回の現職、溝手顕正元防災担当相とともに、新人で立候補したのが前広島県議の河井案里容疑者(46)=自民党を離党、広島選挙区=だった。
夫は、前法相の河井克行容疑者(57)=同、衆院広島3区=である。
自民党広島県連は、「2人候補者を出しても当選する保証は全くない」と猛反発したが、党本部は県連の反対を押し切る形で2人を公認した。
結果は、新人・案里氏が当選し、ベテラン・溝手氏が落選。
2019年の参院選は、自民・公明の与党が改選議席の過半数を上回る71議席を獲得し、勝利を収めた。その後、9月に行われた内閣改造人事では克行氏が法相で初入閣を果たした。
熟年カップル議員の前途は洋々のように見えたのもつかの間、翌10月、案里氏陣営が、車上運動員に1万5000円が上限と規定されている日当について、倍の3万円を支払っていたことが報じられると、克行氏は法相を辞任。
車上運動員の違法日当は、案里氏の公設第2秘書が公選法違反(運動員買収)に問われ、6月16日に広島地裁で懲役1年6月、執行猶予5年の判決を言い渡された。
判決が確定すれば、連座制が適用され、案里氏は失職する。
選挙に弱く、菅・安倍氏との個人的な関係に頼っていた河井克行氏
今回、夫妻が逮捕されたのは、車上運動員の違法日当どころではない、巨額の買収容疑だ。
政権を揺るがす事態となった異様な参院選の背景とは――。
その答えは、克行氏の〝立ち位置〞にあったと自民党中堅議員は指摘する。
その説明を聞く前に、克行氏の議員歴を振り返る。
克行氏は慶応大卒業後、県議を経て1993年の衆院選に無所属で出馬し落選。
96年の衆院選では自民党公認で初当選するも、2000年衆院選では落選。03年衆院選で国政復帰を果たした。
「池田勇人元首相のお膝元である広島は、宏池会の牙城。松下政経塾出身の克行氏は、〝反宏池会〞で県連から異端として扱われていた。地盤はもろく、カバン(資金)も薄い。そんな中、克行氏は菅義偉官房長官と反宏池会で近い関係になった」(自民党中堅衆院議員)
転機が訪れたのは、12年9月の自民党総裁選だ。
前年、鳩山邦夫元総務相が派閥横断型の政策グループ「きさらぎ会」を結成。これに参加した克行氏は、総裁選で再起を懸けた安倍晋三氏応援のため、邦夫氏と安倍氏を引き合わす算段をしたという。
総裁選5日前の9月21日、安倍氏の誕生日に都内のレストランで邦夫氏との会談に漕ぎ着けた。
「安倍氏を担いだのが菅氏だったこともあり、克行氏は奔走した。高村派、麻生派とともにきさらぎ会が加わることによって〝安倍応援団〞が盤石になり、安倍総裁誕生の道筋がついた。これが転機となり、安倍首相にも近づくこととなった」(前出・自民党中堅衆院議員)
明らかに一枚も二枚もかんでいる安倍首相
こうして、安倍首相、菅官房長官の知遇を得て、15年に首相補佐官に任命され、法相にまで上り詰めたというわけである。
自民党関係者は語る。
「党内の克行評は『自分の事しか考えていない身勝手な人』というのが一般的。また、二言目には岸田文雄政調会長の悪口を言っていた。宏池会嫌いは昔からだが、第2次安倍政権誕生以降、『俺には安倍、菅が付いている』というような過信があってか、一層横柄な態度になっていった」
妻の案里氏擁立に関しては、自民党内でも首をかしげる者が多い。地元政界関係者は語る。
「案里氏が県議時代の06年、藤田雄山知事(当時)の疑惑追及でキャンキャンほえまくり、脚光を浴びました。しかし、地元とのつながりは薄く、人望もない。なぜ彼女が候補になるのか不思議でした」
結局、克行氏の妻であることが大きかったとみる向きが多い。そして、このような声につながる。
「案里氏ありきではなく、〝溝手潰し〞ありきで計画されたのではないか」(自民党ベテラン衆院議員)
買収容疑の交付罪に問えるのか?
というのも、党本部から1億5000万円の援助が案里氏陣営には配られていたからだ。
この援助金が、94人に配った約2570万円の買収の〝原資〞と見られている。
一方、もう一人の公認候補、溝手陣営への党からの援助は1500万円。10分の1の金額だ。
「聞いたことがない破格の扱い。政高党低の1強体制の中、露骨な官邸主導で物事が行われたとしか思えない」(自民党衆院議員)
安倍首相は18日、通常国会閉会を受けて記者会見した際、「わが党所属であった現職国会議員が逮捕されたことについては大変遺憾。かつて法相に任命した者としてその責任を痛感しています」と語り、国民に向け、お詫びの弁を述べた。
ところが、河井夫妻が書類送検で済むかどうかが注目され始めていた5月上旬、安倍首相は「私は関係ない」と素っ気なく語ったと、官邸筋は明かす。
また、自民党関係者はこう語る。
「安倍首相は、〝菅人事〞で克行氏を入閣させたが、早々の辞任で大恥をかかされたとの思いが強い。しかし、参院選では山口の地元秘書4人を案里陣営に送り込み、自身も応援に入った。明らかに一枚も二枚もかんでいたのに、都合が悪くなるとそっぽを向く」
もはや身内の自民党内からも厳しい声が飛ぶようになった。
さらに、政治ジャーナリストの角谷浩一氏はこう指摘する。
「東京地検は自民党本部に家宅捜査をすべきです。買収をしたのは夫婦とされていますが、選挙資金1億5000万円を援助したのは党本部ですから。これだけの巨費をつぎ込まれれば、買収に使って是が非でも勝てと言っているようなもの。いわば安倍首相も買収容疑の〝共犯〞と言われても仕方ありません」
前代未聞の買収疑惑の真相解明は始まったばかりだ。
本誌・山田厚俊