台風のメカニズム 温暖化で巨大化する可能性/9
毎年のようにやってくる台風だが、近年は災害の規模が大きくなっている。場所によってハリケーンやサイクロンと呼び名が異なるが、いずれも熱帯低気圧の成長という同じメカニズムで起きる。これらが地球温暖化と関連するのかが話題となっているが、決着はついていない。
地上を吹く風はすべて大気中の気圧の差があるところで生じる。地域ごとの空気の温度に差がある時に、気圧の差が生じる。地面に太陽の光が当たり空気を暖めると、空気が膨張し軽くなって上昇する。すると地上近くでは空気が少なくなるため気圧は低くなる。気圧の差が大きい地域の間で強い風が吹く。
この気圧の差が「低気圧」と「高気圧」となる。いずれも基準となる決まった数字があるのではなく、周囲と比べて相対的に表示される。
こうした気圧の差が熱帯の海上で起きると「熱帯低気圧」が誕生し、強風や大雨を伴う台風になる。これらは地球上にある空気の「上昇気流」から始まる(図)。熱帯の海上では毎秒数メートルの速さで上昇気流が発生し、海面から10キロほど上空まで立ち昇る。このときに水蒸気は水滴となって巨大な「積乱雲」ができる。
この高さまで成長した雲には、1平方キロ当たり3万トンほどの大量の水が集められる。東京ドーム200杯分の水が上空にたまり、巨大な積乱雲の底面積が数十万平方キロに拡大すると台風が生まれる。
発生数は「3割減」
では地球温暖化が進むと、台風は増えるのだろうか。台風は基本的に海面と上空の温度差によって生じるので、温暖化によって上空の温度が上昇すると、両者の温度差が少なくなる。よって、上昇気流も弱くなり台風が減少すると考えられている。気象庁の気象研究所は昨年、地球全体の熱帯低気圧の発生数が最大で3割ほど減るという報告を出した。
大洋ごとの発生確率で見ると、台風が減る地域と増える地域に分かれるシミュレーション結果が出ている。日本など太平洋の北西部では3割以上減るのに対して、大西洋の北部では6割も増える。
温暖化によって地球全体で台風が減少するとしても、台風一つ一つの規模は巨大化する。温暖化で海面温度が上昇すると発生する水蒸気が多くなり、積乱雲の頻度が上がるためだ。海面温度が2度高くなると台風のエネルギーは最大2割、また降雨量は3割増える予測がある。その結果、最大風速が毎秒45メートルを超える熱帯低気圧の数が増え、全体として災害が激化する。日本近海では台風を発生させやすい大気循環になり、巨大台風が増加する可能性が高い。
こうした予測は研究者によって結果がバラついており定説はない。日本政府は今年3月、パリ協定に基づく温室効果ガスの削減目標について、30年までに「13年比26%減」とする現行目標を据え置いた。今後どのような方向に地球は向かうのだろうか。
■人物略歴
かまた・ひろき
京都大学大学院人間・環境学研究科教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。「科学の伝道師」を自任し、京大の講義は学生に大人気。