RCEPの早期妥結が重要と主張していたみずほ総研チーフエコノミスト
米中はコロナ禍以前から「新冷戦」に向かっている。一昨年来の米中摩擦は貿易不均衡だけでなく、ハイテク、軍事技術での競争優位、ひいては国際的な覇権を巡る攻防になっている。
米中の分断を加速させているのが新型コロナだ。感染者と死者の数で世界最大の被災国の米国は、震源地の中国への批判を強めている。今後はコロナ後の秩序を巡って、中国型の国家資本主義と米国型の伝統的な自由民主主義の「制度間競争」になる可能性がある。
1980年代半ば以降のポスト冷戦とグローバル化が修正を迫られている。その中で、日本の政策や企業戦略もおのずと変わってくる。中国への技術流出を懸念する米国は連邦政府調達、対内投資、輸出管理面などで規制強化を進めている。同様の規制を日本に求める姿勢が強まることも予想される。
日本にとって、中国市場が最重要市場の一つであることは変わらないが、日本企業としては米国の規制順守は必須だ。米国の輸出規制が日本から中国へのハイテク輸出についても域外適用され、日本企業のビジネスが影響を受けるケースも考えられる。米中対立と新型コロナによってサプライチェーンの再構築も課題だ。
米中対立で、日本は両国の板挟みになるが、両国にとって日本の存在価値が高まることにもなる。態度の明確化を求められるかもしれないが、両国との良好な関係維持に努めるべきだ。
日本と中国を含む東アジアの自由貿易協定である「RCEP」交渉の早期妥結も重要だ。米中両国の対立回避に向けて、必要に応じて仲介を行うことが世界第3の経済大国の責務だ。容易な仕事ではないが、官民で、また、欧州やアジア太平洋諸国とも連携した日本の戦略の巧拙が問われてくるだろう。
(長谷川克之・みずほ総合研究所チーフエコノミスト)
本誌初出は2020年6月29日の特集『狂った米国、中国の暴走』日本の選択 Part2 貿易協定主導し米中の仲介を=長谷川克之
■人物略歴
はせがわ・かつゆき
1964年生まれ。上智大学法学部卒業後、88年日本興業銀行入行(現みずほフィナンシャルグループ)、2002年みずほ総合研究所、19年より現職