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国際・政治 狂った米国、中国の暴走

RCEPはインド除き年内発効と予言していた元通産官僚の津上俊哉氏

 米トランプ政権は、自由貿易やグローバリゼーションなど、世界がこの30年間積み上げた積み木を1個ずつ引き抜いている状態だ。どこかで崩れてしまいかねない。この調子がこの先10年続くと、国際秩序は元の正常な状態を見失ってしまう。

 だからこそ、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)や東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を推進することが重要になる。自由貿易を捨ててはいけない。いったん過去の秩序が失われると、最終的にどこに立ち返ればよいか分からなくなってしまうからだ。

 RCEPはインドが交渉から離脱の方針を示している。日本はインドの考えが変わるのを待つ姿勢だが、中国やASEAN諸国の一部は「インドを待たずに年内にも発効させよう」という構えだ。

 日本はどうするのか。「インド抜き中国主導」を嫌って参加を見送るのか、それとも発効をブロックするか、各国が日本の去就を見つめるだろう。

 米国が世界貿易機関(WTO)の上級委員会の委員選任を拒否したことで紛争解決機能が停止してしまった。欧州や中国ほか主要19カ国は、去る4月、有志国の間では紛争解決ルールを温存する暫定合意をスタートした。日本がこの合意に参加しなかったことは理解できない。米国が迷走するなか、「TPPを生かした日本が自由貿易を守る役割を果たしてくれ」という期待が国際社会に生まれたが、今のままではその声もしぼんでしまうだろう。

 戦後米国が構築してきた国際秩序はトランプ政権の3年間で大きく傷付いた。権力チェックの仕組みを持ち合わせない「中国モデル」が米国の代わりを担えるはずもない。世界はリーダー不在の「Gゼロ」時代に突入する。日本は「自分の身は自分で守る覚悟」と同時に、世界が正気に戻ったとき「戻る場所はここだ」と指し示すべきだ。

(津上俊哉、日本国際問題研究所客員研究員・現代中国研究家)

本誌初出は2020年6月29日の特集『コロナ後の米中』 の「日本の選択 Part2 「世界が戻る場所」の先導役に=津上俊哉」


 ■人物略歴

つがみ・としや

 1957年生まれ。東京大学卒業後、80年通商産業省(現経済産業省)に入省。在中国日本大使館参事官、北東アジア課長、経済産業研究所上席研究員などを歴任

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