国際・政治

英・ロイズはなぜ東京を「世界一危険な都市」と認定したのか=立沢賢一(元HSBC証券会社社長、京都橘大学客員教授、実業家)

    豪雨で一部が流された球磨川に架かる15号線の鉄橋=2020年7月10日午前10時7分、熊本県人吉市
    豪雨で一部が流された球磨川に架かる15号線の鉄橋=2020年7月10日午前10時7分、熊本県人吉市

    日本は災害の総合デパートだ

    九州豪雨では、記録的な大雨が起こり、7/8現在、熊本を中心に59人死亡、4人心肺停止、16人不明となっています。

    水害と言えば、昨年、台風19号は、東日本を中心に激しい被害をもたらしました。決壊箇所は実に71の河川、128ヶ所。言うまでもなく、氾濫箇所は何百カ所に上りました。

    たった一つの台風でここまで多くの決壊・氾濫が生じた事例は、私の記憶にありません。

    そして、死者、行方不明者は100名近く・・・。

    私の実家は高さ130センチまで水が室内に入り、両親が60年余り住んでいた家はもう住める状態ではなくなってしまいました。そして私の両親は思い出の物を全て失ってしまったのです。

    誠に恐ろしい話ですが、台風19号は、もう少し経路が違ったり、あるいは、治水対策が少しでも遅れていたりすれば、これをさらに上回るより甚大な被害が生じていたでしょう。

    ほんの少し経路とスピードが違えば、数万人の死者と、100兆円規模の被害を出す巨大高潮が東京湾で生じていたかもしれません。

    八ッ場ダムの建設が「あと2週間」遅れていれば、利根川の本流での大規模な堤防決壊があったかもしれません。

    荒川の流域で、もう少し多くの雨が降っていれば、荒川で堤防決壊が生じていたかもしれません。

    これら3つの最悪ケースが同時に生じた場合、その被害総額は、150兆円から200兆円という、あの東日本大震災を上回る被害が生じていた可能性もあったのです。

    「著しい不足」と言わざるを得ない治水投資

    そもそも、1990年代から日本の治水投資は大きく削減され、かつての半分程度の水準に落ち込んでいます。

    軽く見積もって、この20年間で、約8兆円の治水投資が削減されたのですが、もし、その8兆円がそのまま、治水投資に回されていたとすれば、決壊箇所は、128ヶ所の半分以下の60か所、あるいは、さらにそれよりも少ない、30-40ヶ所程度で済んでいたかもしれないのです。

    そうなれば、台風19号による経済被害も、それに伴い発生した税収減少を縮小する効果も、そして、復旧・復興費用も皆、半分から1/3程度に抑えられていたことでしょう。

    私の実家も水没することはなかったかも知れません。

    つまり政府は、8兆円の治水投資を「ケチった」ことによって、地方における経済被害、財政被害をさらに拡大させることになったのです。

    そして、こうした台風は、これからも何度もやってくることは避けられません。

    そもそも、台風19号の上陸時の強度は945ヘクトパスカルに過ぎず、これは、戦後上陸した台風のトップ10にも入らない程度の水準だったのです。

    2020年の夏以降もまた多くの台風が日本列島に上陸する可能性は非常に高いです。

    ですから今こそ、政府は、最悪の事態を避けるため、徹底的な治水投資を進めるべきなのです。

    政府は今、一応、昨年度から来年度にかけての3か年、年額「1兆円程度」の国費をかけて、治水投資の「拡大」を行っています。

    この投資に先立ち、政府は全国のインフラをチェックし、危険個所を洗い出し、その上で投資を行ったのですが、そこで選ばれた「危険箇所」は、「3年以内」に対策が完了可能で、かつ、人口等が特に多い箇所に限定されていました。

    つまり、本来なすべき対策の内、そのごくごく一部に防災対策が成されただけに過ぎないのです。

    例えば、台風19号で、特に大きな被害が出た千曲川は対策すべき箇所からは漏れ落ちていました。あの地点は、集中豪雨があれば間違い無く決壊するであろうことが、技術的に明らかであったにもかかわらず。

    つまり、政府の強靭化投資は、圧倒的に不足しているのが現状なのです。

    今後も「数十年に1度」の災害が毎年訪れる!

    現在、とても洒落にならないような事態が進行中です。

    以下は日本損害保険協会が調べた保険金支払い額の歴代ランキングです。

    もう「数十年に1度」と考えることはできません。

    〇風水災等による保険金の支払い額

    1. 2018年台風21号 大阪・京都・兵庫など 1兆0678億円

    2. 1991年台風19号 全国 5680億円

    3. 2004年台風18号 全国 3874億円

    4. 2014年2月雪害 関東中心 3224億円

    5. 1999年台風18号 熊本、山口、福岡など 3147億円

    6. 2018年台風24号 東京・神奈川・静岡など 3061億円

    7. 2018年7月豪雨 岡山・広島・愛媛など 1956億円

    8. 2015年台風15号 全国 1642億円

    9. 1998年台風7号 近畿中心 1599億円

    10. 2004年台風23号 西日本 1380億円

    実に歴代トップ10のうち3件が2018年に発生しています。そして2019年の台風19号は記録を塗り替えてしまいました。

    こうしてみると、日本は台風多発時代を迎えてしまったようです。

    「数十年に1度」の規模の台風が、毎年のようにやってきます。その原因が気候変動問題にあるのかどうか、何とも言いようがないです。

    しかし、これだけ巨大台風が連続しているということは、「今年もまたあるかもしれない」と考えておくべきでしょう。

    誠に恐ろしいことに、地震による保険金支払額でも似たような現象が起きています。

    〇地震保険による保険金支払い

    1. 2011年東日本大震災 1兆2833億円

    2. 2016年熊本地震 3859億円

    3. 2018年大阪北部地震 1072億円

    4. 1995年阪神淡路大震災 783億円

    5. 2018年北海道胆振東部地震 387億円

    東日本大震災は別格としても、トップ5のうち2件が2018年発生し、もう1件(熊本地震)も直近5年以内です。

    日本列島は、自然災害の多発時代を迎えつつあるようなのです。言い方は悪いですが、確実に自然災害の総合デパートなのです。

    それではどうすべきなのでしょうか? 国土強靭化のために、30年物国債を発行して公共事業をどんどん増やそう、という声は当然の事ながら自民党内から湧き上がっては来ません。緊縮財政政策優先だからです。寧ろ災害対策も予備費から、などと言っています。

    東京は「世界一安全」だが「世界一リスクが高い」

    英エコノミスト誌の関係会社、EIU社が発表しているSafe Cities Index(安全都市指数)という調査があります。この調査の2019年版では、3年連続で東京が「世界で最も安全な都市」に輝いています。

    「サイバーセキュリティ」で1位、「医療・健康環境」で2位、「インフラの安全性」で4位、「個人の安全性」で4位、総合スコアでは堂々の1位です。この調査、大阪も第3位に入っており、なるほど「日本は安全な国」との印象です。

    ところが英保険組織のロイズが、ケンブリッジ大学と共同で行っている都市リスクの指標もあります。こちらは紛争や災害の脅威を試算しているのですが、この都市ランキングでは東京が第1位、大阪が第6位となっています 。

    損害保険という「危険を買う仕事」の人たちの眼には、「東京や大阪は危なっかしい」と見えているのです。

    〇「2つの都市」ランキング

    安全な都市ランキング(英EIU)

    1位 東京

    2位 シンガポール

    3位 大阪

    4位 アムステルダム

    5位 シドニー

    6位 トロント

    7位 ワシントンDC

    8位 コペンハーゲン

    9位 ソウル

    10位 メルボルン

    脅威リスク都市ランキング(英ロイズ)

    1位 東京

    2位 ニューヨーク

    3位 マニラ

    4位 台北

    5位 イスタンブール

    6位 大阪

    7位 ロサンゼルス

    8位 上海

    9位 ロンドン

    10位バグダッド

    言われてみれば、日本は確かに安全であり、同時に危ない国なのです。

    2019年9月の台風15号では、成田空港が交通アクセス遮断で陸の孤島となり、約1万4000人が空港で足止めを食らいました。鉄道もダメ、タクシーもダメ、空港内では水と食料が足りず、しかも携帯の電波もつながりませんでした。もちろん外国人観光客は大混乱だったそうで、誠に気の毒なことですが、そういうリスクは確かにこの国にはあるのです。

    誰もが口にする「まさかウチがこんな目にあうなんて……」

    この先、日本は自然災害の多発時代を迎えます。

    河川や海岸、ダムに堤防といった既存の国土インフラは老朽化が目立っていますが、少子・高齢化時代においては更新やメンテナンスは容易なことではありません。

    恐らく、気象情報の精度向上や、避難訓練の実施といったソフト面の充実を図っていくことで災害を受け入れる必要があるのです。

    日本人は、リスクの高い国土でこれからどうやって生きていくのかを問われているのではないでしょうか?

    何しろ昨今は、「災害は忘れた頃に」ではなく、「忘れる間もなくやってくる」時代ですから。自然災害は他人事ではないです。

    私の父が被災後、何度も何度も「まさかウチがこんなになるとは夢にも思ってなかった」と言って意気消沈していたのがとても印象的でした。私達は「まさか」が自分の身に降りかからないように、常日頃からリスク管理には必要以上の注意を払わなければいけないのです。

    新型コロナウイルス対策もまた然りです。

    再三申し上げていますが、自分の身は自分で守らなければいけない時代の中で私達は生きているのですから。

    立沢賢一(たつざわ・けんいち)

    元HSBC証券社長、京都橘大学客員教授。会社経営、投資コンサルタントとして活躍の傍ら、ゴルフティーチングプロ、書道家、米国宝石協会(GIA)会員など多彩な活動を続けている。投資家サロンで優秀な投資家を多数育成している。

    Youtube https://www.youtube.com/channel/UCgflC7hIggSJnEZH4FMTxGQ/

    投資家サロン https://www.kenichi-tatsuzawa.com/neic

    インタビュー

    週刊エコノミスト最新号のご案内

    週刊エコノミスト最新号

    12月15日号

    税務調査 コロナでも容赦なし!16 コロナ「中断」から再開 効率化で申告漏れ次々指摘 ■種市 房子19 元国税局芸人に聞く! さんきゅう倉田「手ぶらでは調査から帰らない」23 国税の「最強部隊」 「資料調査課」の実態に迫る ■佐藤 弘幸24 「やりすぎ」注意! 死亡直前の相続税対策に相次ぎ「待った」 [目次を見る]

    デジタル紙面ビューアーで読む

    おすすめ情報

    最新の注目記事