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元外資系証券会社社長が教える「老後資金をつくる2つの基本ルール」=立沢賢一(元HSBC証券会社社長、京都橘大学客員教授、実業家)
前回お金の意識を高める三種の神器と広義の投資としての子女教育についてご説明しましたが、今回は資産運用で心しておくべき2つの基本ルール についてお話します。
多くの人が資産運用を勘違いしている
前回、金融庁の報告書の老後2000万円不足問題に関して、私は実際には2000万円よりも大きな金額が必要となる可能性を指摘しました。
2016 年初に金融庁が行ったアンケート調査では、投資未経験者のうち、83%が「有価証券への投資は資産形成のために必要ない」と回答しました。そして「そもそも投資に興味がない」が約6割、「投資はリスクがあり怖い」、「投資の知識がない」がそれぞれ約3割でした。「有価証券投資は資産形成のために必要だ」と認識しながらこれまで投資したことがない層は、その理由として「まとまった資金がない」との回答が7割強を占めたほか、「投資の知識がない」が約5割、「投資はリスクがあり怖い」が約4割という結果でした。(金融庁 平成27事務年度 金融レポートより一部引用)
また、2018年に金融庁が行なったアンケート調査では、投資未経験者のうち、約8割が「有価証券への投資は資産形成のために必要ない」 。その理由としては、「そもそも投資に興味がない」等と回答しました。投資教育を受けた経験がない人が約7割であり、そのうち3分の2が、「金融や投資の知識を身に付けたい と思わない」とも主張しているのです。
つまり、そもそも資産運用を「危険なこと」とか、「行う必要がないこと」と認識している日本人が多過ぎるのです。
日銀調査統計局に拠りますと、日本人の保有資産内訳は現金・預貯金が約53%、保険・年金等が約28%と家計の金融資産の約8割を安全資産が占めています。そしてリスク資産と見られる株式は10%、投資信託は3.9%に過ぎず、リスク資産の保有率はとても低いのが現状です。ゼロ金利状況の中で、保有資産の8割がゼロ金利に近い安全資産で占められている事実がアンケート結果を如実に物語っています。
因みに、アメリカ人の保有資産内訳は、株式が34%で投資信託などを含めますとリスク資産は全体の50%以上、現金・預金13%、保険・年金等の安全資産が約31%となっています。
つまり、リスクはありつつも資産が増える可能性の高いと思われる資産に5割以上、安全資産に4割強とリスク資産と安全資産とのバランスが上手く取れているのが分かります。
本当に勝ちたいなら世界経済を見るべし
とは言え、私はリスク資産の一つである日本株に即投資することを奨励しているのではありません。
例えば30年前( 1990年 )に、手持ち資金を日経平均に投資したとしますと、現在、保有資産は約30%も減少してしまったはずです。ですが、もしそれを米国株に投資していたら、保有資産は約10倍に増加していました。
30年前に1000万円投資した場合、日本株でしたら現在700万円に減価しているのに対し、米国株でしたら1億円にまで増えていた計算になるのです。
つまり、何でもかんでも投資すれば良いのではなく、同じ金融商品であっても投資先によって、実績には雲泥の差が現れるのです。
では資産運用の具体的なルール2つをご紹介します。
ルールその1 右肩上がりの資産に投資する
これは価格形状が右肩上がりの投資資産でないと長期運用しても資産を増やせないということです。とても大事なルールです。日本株と米国株の例で大きな実績の違いが発生したのは、日本株が右肩上がりの価格形状を呈する資産ではないのに対し、米国株は右肩上がりの価格形状を呈する資産なのです。
後程触れますが、世界一の投資家であるウォーレン・バフェット氏は自分がアメリカ人として生まれて来なければ、世界一の投資家にはなれなかったと断言しています。アメリカ人として生まれ、身近にあった米国株に投資したことこそが成功の理由だと言うのです。
ルールその1を実現できる資産は決して米国株だけでなく、不動産やコモディティなど色々ありますので、自ら良く研究し、右肩上がりの価格形状の投資資産を探すことが重要なのです。
ルールその2 人類最大の発見、複利の力を活用する
20世紀最大の物理学者アインシュタインは、自身が発明した特殊相対性理論でもブラウン運動の理論でもなく、複利の概念を「人類最大の発明」「宇宙で最も偉大な力」と賞賛しました。
複利とは「元本だけでなく、利子が利子を生む」という考え方で、毎年受け取る利子や配当を再投資することです。複利の対義語に「単利」があり、これは最初の元本だけが利息を生み続けるものを指します。
例えば100円を年率10%で運用した場合、1年後110円になります。そこで利子の10円を引き出さず、10円も運用しますと元本が110円になります。2年目に110円を10%運用しますと2年後には121円になります。単利ですと利子を再運用しないので元本は100円のままです。
実際に、年利5%で複利運用した場合、30年後に複利効果は単利の約1.7倍( 複利4.3倍vs 単利2.5倍 )にも及ぶのです。
この概念を最大限に利用したのが世界一の投資家ウォーレン・バフェット氏です。彼は50年間、年率平均19.2%で複利運用し、資産を6,513倍に増やしたのです。
長期投資は遥かに高いリターンを得る最適な手段
前回、お金の未来年表を紹介しましたが、人生で億単位の資産を作るには是非とも複利を利用すべきなのです。
例えば、25歳の人が1,000万円を年率6%で40年間複利運用しましたら65歳時(現在の年金給付開始時) に1,000万円が1億円を超えるのです。
40年という時間の価値を利用することで、アインシュタインが言うところの「宇宙で最も偉大な力」複利パワーが老後必要なお金の準備に一役(ひとやく)買うのです。
最近、投資と投機を誤認して短期売買を投資と呼んでいる人がいますが、成功する投資とは投資資産の価格動向に一喜一憂するのではなく、極端な言い方をしますと、投資したことすら忘れてしまうことなのです。そして忘れてしまった投資資産の存在を10年とか20年後に思い出して売却すれば、必ずしも高度な金融や投資知識を持っていない長期投資家である自分が、短期で相場を見ながら売買を繰り返している有能な投機家よりも遥かに高いリターンを得るという事実に驚くのです。
立沢賢一(たつざわ・けんいち)
元HSBC証券社長、京都橘大学客員教授。会社経営、投資コンサルタントとして活躍の傍ら、ゴルフティーチングプロ、書道家、米国宝石協会(GIA)会員など多彩な活動を続けている。投資家サロンで優秀な投資家を多数育成している。
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