「月8万やるからあとは自己責任で」ベーシックインカムにいまいち全面賛成できない理由=雨宮処凛
<インタビュー「私が考えるベーシックインカム」>
ベーシックインカムを支持する人の間でも、その目的や手法についての考え方はさまざまだ。財政や社会運動などの分野で幅広く活躍する4人の論者に聞いた。
(聞き手=市川明代/桑子かつ代・編集部)
── ベーシックインカム(BI)へのスタンスは?
■条件付き賛成。BIを導入する前提として、既存の社会保障制度をなくせという人がいるが、それには反対。例えば月に10万円支給されても、それだけでは難病の人や介護の必要な人は生きていけない。ほかの公的支援とセットであれば賛成だ。
── 今のBIの議論には危うさがあるということか。
■「これだけ(お金を)やるから、あとは自己責任で生きていけ」となったら、それは究極の自己責任論で、今以上に弱肉強食の世界になってしまう。自己責任論の言い訳としてBIが使われるのはとても危険だと思う。一番気になるのは医療費だ。例えば生活保護でもっとも心強いのは、医療費が無料になること。お金のあるなしで医療を受けられるかどうかが決まるような社会にしてはいけない。
BIに対して抱いているイメージは、人によって全く異なる。BIについて話をする前に、その人の考えるBIがどんなものなのか詳しく聞かないと、話がかみ合わなくなってしまう。同じBI推進論者でも、意見の異なる人同士で対話が必要だ。
── BIに賛成する一番の理由は?
■1990年ぐらいまでは景気も良かったし、会社の福利厚生も充実していたので、賃金労働だけで生きていくことができた。でも今は非正規雇用が全体の4割を占め、その平均年収は179万円ほど(2018年)。そこから社会保険料や税金、医療費を払って、子育てや親の介護までやろうとしたら、生活が破綻してしまう。
年収179万円の人が月8万円のBIをもらえたら、生活は相当楽になる。生きるか死ぬかというところから抜け出せる。貧困層は、必要からすぐに消費するので経済全体にもいい影響を及ぼす。
コロナで増えた寄付
── 生活保護はセーフティーネットとして機能していないか。
■生活保護は、全てを失わないと受給できない。新型コロナウイルスの感染拡大で住宅ローンを払えなくなったという相談もあるが、住宅ローンがあると生活保護は受けられない。全てを失い、所持金が底を突いて初めて対象者になる。
生活保護の審査はとても厳しい。みんなが嫌がるのは、親兄弟の扶養の可否を把握するための「扶養照会」だ。自分が困窮していることを知られたくない、心配をかけたくない、という思いは誰にでもあって、生活保護申請のハードルを上げている。銀行口座、戸籍謄本……、全て調べられ、丸裸にされる。手間もかかるし、もっと簡素化していいはずだ。
── BIが就労意欲をそぐという意見もある。
■働いても食べられない人が膨大にいることのほうが問題ではないか。「働く=賃金労働」という世界は限界を迎えている。BIは、働くということを根底から問い直すことにつながる。
── お金を必要としていない人にも一律で配ることについては?
■平等に配られれば、生活保護のような「恥ずかしい」というタブーの感覚がなくなる。今、10万円の特別定額給付金は要らないという人たちから、困窮者の支援団体に寄付がたくさん集まっている。弱者を見捨てる社会になるのか、支え合いの社会になるのか、分岐点になる気がしている。
(雨宮処凛・作家、活動家)
(本誌初出 インタビュー 雨宮処凛 公的支援とセットなら賛成 危険な「究極の自己責任論」 20200721)
■人物略歴
あまみや・かりん
1975年北海道生まれ。フリーターなどを経て、2000年に自伝的エッセー『生き地獄天国』でデビュー。作家、活動家として格差・貧困問題に取り組んできた。主な著書に『生きさせろ! 難民化する若者たち』。