経済・企業鉄道の悲劇

テレワーク推進で「都心ターミナル駅」が打撃を受ける一方、脚光を集める「あのエリア」

    テレワークによって閑散とするオフィス=東京都渋谷区で2020年2月20日、竹内紀臣撮影
    テレワークによって閑散とするオフィス=東京都渋谷区で2020年2月20日、竹内紀臣撮影

    <コロナ禍 鉄道の悲劇>

    「社員に通勤を頑張らせることは、本当に必要でしょうか?」──。これは、7月上旬より首都圏で流れているIT企業のテレビCMの文言だ。

     都心のターミナル駅で大勢の利用者がマスク姿で通勤する姿が映し出され、コロナ禍での電車通勤への危機感をあおる。そして、多様な働き方の選択肢の一つとしてテレワークを推奨し、そのIT企業が提供するテレワーク用ツールをPRしてCMは終わる。(鉄道の悲劇)

    「電車通勤は悪」

     このCMは3月に掲載された新聞広告の内容を映像化したもの。5月25日に緊急事態宣言が解除された後、多くの企業が通常業務に戻る中で、テレワークを再評価する動きが進んだことから、今後のテレワーク需要を見込んで、テレビCMを展開した格好だ。

     しかし見方によっては、「電車通勤は悪で、通勤電車は不要なもの」というイメージを助長しかねない。こうしたテレワークを進める動きは、鉄道会社にとっては強い逆風だ。

     ただでさえ、コロナ禍で各鉄道会社は大きな痛手を被った。4月および5月は多くの会社で鉄道収入が前年同月比50~70%減少となった。学校の休校や企業の在宅勤務導入で通学・通勤の定期収入が減ったところに、移動の自粛で国内旅行が冷え込み、非定期収入も大きく減った。

     需要の戻りがどの程度になるかは見通せていない。鉄道会社は2021年3月期の業績見通しを公表できず、ほとんどの会社が配当予想を見送っている。

     こうした苦境に追い打ちをかけるのが、コロナ第2波への恐怖と冒頭のCMにあるようなテレワーク推進の流れだ。これを機に働き方を見直す企業もある。

     コロナ禍以前からテレワークを積極的に推進してきた富士通は、国内約8万人のグループ社員を対象に、自宅や最寄りのサテライトオフィスで働くテレワークを基本の体制に切り替えた。そして、7月21日付で通勤定期代の支給を廃止するという。富士通に追随する企業が増えてくると鉄道会社としては痛い。

     しかし、鉄道会社は営業エリアを変えることができない。沿線住民に対して、安心かつ安全な運輸サービスを提供することが事業の基本だ。沿線の需要を喚起し、回復してくるのを待つしかない。 

    利用客が少なく閑散としたJR東京駅・八重洲口(2020年4月)
    利用客が少なく閑散としたJR東京駅・八重洲口(2020年4月)

    郊外拠点駅の回復

     日本はこれから少子高齢化で人口減少に向かう。沿線住民が減少し、将来的に鉄道収入の減少が見込まれることから、鉄道会社は鉄道事業以外の収益の柱をつくるべく、経営の多角化を進めてきた。

     もともと鉄道会社のビジネスモデルは、鉄道事業を基本としつつ拠点駅の周辺で、商業施設やホテルを営み、また沿線の不動産開発を行い、さらに観光地の整備やレジャー施設を設けて集客するビジネスを展開している。

     経営の多角化を進める上で、各社がそれぞれの強みを生かして、鉄道事業以外でもサービス向上に努めてきた。そして、今や全売り上げに占める鉄道事業の割合は、JR各社平均は66・7%だが、大手私鉄平均が29・8%にまで減少している。

     今回のコロナ禍は多角化した事業それぞれに影響を与えているが、今後に向けた光明もある。それが郊外の拠点駅周辺の事業だ。

     緊急事態宣言下の自粛期間中に都心へ向かう人の移動は大きく減少し、都心の駅周辺の商業施設は大きく売り上げを落とした。逆にこれまで郊外から都心のターミナル駅まで買い物に来ていた層が、都心に出るのをやめ、近隣の拠点駅まで移動し、その駅の周辺の商業施設で買い物を済ませる動きがみられた。そのため、都心の商業施設よりも郊外の拠点駅の商業施設のほうが売り上げの落ち込みが少なく、また回復も早い。

     例えば、小田急電鉄について、小田急百貨店の4月、5月の売り上げは新宿店が前年同月比81・3%減、同72・8%減で推移したのに対し、藤沢店(ODAKYU 湘南 GATE)の売り上げはそれぞれ同55・2%減、同52・9%減で推移。新宿店に対して藤沢店の落ち込みは少なかった。

     また、西武鉄道について、西武ホールディングス(HD)広報によると、駅商業施設の売り上げは、4月は都心が前年同月比約90%減、郊外駅が同約50~60%減だったのに対し、6月は回復して都心が同約30~50%減、郊外が約10~20%減で推移している。郊外の落ち込みが少なかった要因は、地元密着型、生活密着型の店舗構成となっていることが大きいという。

    (注)HDはホールディングス (出所)各社の2019年度決算書、梅原淳氏提供資料を基に編集部作成
    (注)HDはホールディングス (出所)各社の2019年度決算書、梅原淳氏提供資料を基に編集部作成

    テレワークも取り込み

     一方、テレワークが進むとして、すべての人が自宅で業務を行うわけではない。自宅近隣のサテライトオフィスを活用するならば、鉄道会社に事業機会が生まれる。郊外駅周辺にサテライトオフィスやテレワーク用のシェアオフィスの設置が進む可能性がある。

     テレワーク用の施設は、首都圏でJR東日本が駅ナカシェアオフィス事業「STATION WORK」を展開している。JR東日本広報によると、現在は都心部の駅が中心だが、郊外のベッドタウンの駅への展開も予定しているという。こうした動きが大手私鉄でも広がれば、郊外の拠点駅での需要創出になる。

     今後はこうした地域の需要を掘り起こしていくことが、移動減少によるダメージの補填(ほてん)につながる。そのため郊外の拠点駅の重要性が高まっていくだろう。

    (村田晋一郎・編集部)

    (本誌初出 「通勤電車は不要」の新常態 鉄道会社が注目する富士通ショックの行方=村田晋一郎 

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