経済・企業鉄道の悲劇

コロナで苦境の鉄道各社 間引き運転ではコストダウンにならないワケ

    乗客がいない状態でも、新幹線は間引き運転せずに運行された(20年4月)
    乗客がいない状態でも、新幹線は間引き運転せずに運行された(20年4月)

     新型コロナウイルス感染症の蔓延(まんえん)に伴って出された緊急事態宣言によって外出や移動の自粛が大々的に行われ、鉄道会社各社は大打撃を受けた。本稿執筆時点では鉄道会社各社の2020年度第1四半期(4~6月期)の決算が不明なため、今回の事態が及ぼした鉄道会社への影響は確定していない。しかし、19年度の決算を見ると、JR各社(JR貨物除く)、大手私鉄の中には売上高が最大で数%程度、経常利益が20%を超える減少を記録したところがあるなど、その兆候は既に表れている。

     コロナ禍以前は訪日客(インバウンド)需要が旺盛であり、19年度における鉄道の利用状況は前年度を上回ることが確実視されていた。だが、2月、3月の落ち込みだけで19年度の業績がこれだけ悪いとなると、20年度の営業収支はさらに悪化する恐れがある。

    間引き運転もできず

     中小や地方の私鉄、第三セクター鉄道の経営は以前から苦しいので、コロナ禍の影響を大いに受けるのは当然だ。しかし、JR各社や大手私鉄がここまで苦しむのは意外に思われるであろう。実は、ここに鉄道業界が抱える構造的な問題が隠されている。

     まずは4・5月という緊急事態宣言が発出された時期が鉄道会社にとってはかき入れ時であり、この時期を逃すと挽回は難しいという点だ。

     国土交通省によると16~18年度の月別で見た鉄道利用者の平均は20億7890万人で、最も利用者が多かった月は5月の21億5938万人であった。4月は20億9059万人と月別では7位ながら、新年度の始まりで定期乗車券の売り上げが増える月であるのは言うまでもない。月別の収入に関するデータは公表されていないものの、鉄道会社にとってこれら両月に営業できなかったのはとても痛い。

     ならば、営業費用の削減を狙って列車の運行を大幅に間引けばよかったのではという意見も聞かれる。しかし、鉄道会社の多く、特に本州のJR各社や大手私鉄各社の取り組みは消極的であった。輸送需要が減った一方で、ソーシャルディスタンス(社会的距離)を確保するためという理由も挙げられる。

     だが、真の理由は鉄道事業に占める固定費の割合は非常に大きく、列車を間引いても営業費用の削減にはあまり役立たないからだ。表を見ると鉄道事業に占める固定費は鉄道会社全体で83・9%、JR貨物を含めたJR7社や大手私鉄はおおむね平均程度、地下鉄や中小私鉄、路面電車となるとさらに割合は増えていく。

    (注)変動費は人件費を除く運輸費(旅客・貨物の取り扱いに要する費用など)、動力費とみなした (出所)「平成29年度 鉄道統計年報」国土交通省、2020年3月
    (注)変動費は人件費を除く運輸費(旅客・貨物の取り扱いに要する費用など)、動力費とみなした (出所)「平成29年度 鉄道統計年報」国土交通省、2020年3月

     要するに鉄道事業とは巨大な装置産業であり、車両や線路は最も大きな輸送需要に合わせて整備されている。鉄道事業では営業費用の削減には固定費を減らすほかない。しかし、輸送需要が戻ったときに再度投資が必要となってしまう。

     また、JR北海道、JR四国の両社は緊急事態宣言中に手持ちの現金が尽きるとして、緊急の融資を受けたり、債務の返済の繰り延べを訴えたりした。理由は前述の2点、そしてさらに国鉄の分割民営化時の欠陥が明らかになったからだ。

     一般的な企業は危機状況において、資本準備金などを取り崩す。17年度末の時点でJR北海道には1535億円、JR四国には543億円の資本準備金が存在するはずだが、実際にはこれらを活用することはまず不可能だ。両社の資本準備金とは、旧国鉄の膨大な長期債務のうち、本来両社が負担すべきであった分を形式的に計上しているに過ぎない。

     もともと経営体力の弱いJR北海道、JR四国は国の支援を受けられる上、鉄道事業は日々収入が得られる日銭商売である。いかに両社といえども、手持ちの現金が不足する事態など、当時は想像できなかったのであろう。

    西武グループのプリンスホテルは一部施設を除き休業を余儀なくされた。写真はびわ湖大津プリンスホテル(20年4月)
    西武グループのプリンスホテルは一部施設を除き休業を余儀なくされた。写真はびわ湖大津プリンスホテル(20年4月)

    時間帯別運賃

     今回のような事態に備え、鉄道会社も多角経営の必要性が叫ばれ、JR各社、大手私鉄は経営の多角化を進めてきた。だが、沿線を中心とした小売り・流通業や不動産業が中心で、鉄道事業頼みの面は否めない。

     鉄道関連事業から脱却して一本立ちできるほどの事業に成長しても、今回のコロナ禍で皮肉にも鉄道事業以上に影響を受けた事業も見られる。それがホテル・レジャー・サービス業だ。例えば、西武鉄道の持ち株会社である西武ホールディングス(HD)は、19年度のセグメント別売上高では最大の39・9%を占める一方、営業利益は前年度比59・2%減と、運輸・交通業の同13・7%減と比べて落ち込みは激しい。ただし、西武HDのセグメント別営業利益を見ると、不動産業や建設業はさほど悪化していないので、多角化が功を奏したとも言える。

     JR東日本はコロナ禍後を見据え、時間帯別運賃の導入を図りたいとの意向を発表した。ラッシュ時は高額で日中は割安な運賃を設定することで混雑の平準化が図られ、鉄道会社にとっては過大な投資の抑制、利用者にとっては快適性の向上といった利点が得られる。今回取り上げた鉄道事業の構造的な問題は改めづらいものではあるが、過去の常識にとらわれない方策が立ち直りの契機となるのかもしれない。

    (梅原淳・鉄道ジャーナリスト)

    (本誌初出 鉄道業界の深刻な構造問題 減らせない固定費が足かせ かき入れ時の売り上げ逃す=梅原淳 20200728)

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