プレ西日本大震災 南海トラフ巨大地震で“打ち止め”/12
前回は日本列島で頻発する内陸地震を「ポスト東日本大震災」の観点から解説した。今回は近い将来に予想される南海トラフ巨大地震に伴う内陸地震としての原因を探る。言わば西日本大震災の前に活発化する「プレ西日本大震災」としての直下型地震である。
日本列島では地震の「活動期」と「静穏期」が交互にやってくることが分かっている(図)。過去に起きた地震を詳しく調べると、南海トラフ巨大地震発生の40年くらい前からと発生後10年くらいの期間に、日本列島の活断層が動き地震発生数が多くなる。そして現在は次の南海トラフ巨大地震の発生前の「活動期」に当たる。そして1995年の阪神・淡路大震災は、こうした活動期が始まった最初の内陸地震である。
南海トラフで巨大地震が発生すると、陸側プレートのひずみが解消され、その後半世紀ほどのあいだ内陸部で地震が起きにくい状態が続く。50年ほど続いた静穏期が終わった後は内陸の直下型地震が増え始める。実際、48年に起きた福井地震(死者3769人)の後、阪神・淡路大震災(死者6434人)まで大地震は発生しなかった。
8割は阪神後に発生
これまで日本で発生した最大震度6弱以上の内陸地震を調べてみると、44年の昭和東南海地震以後に起きた地震の約8割が95年の阪神・淡路大震災以後に起きている。近年では2005年の福岡県西方沖地震、13年の淡路島地震、16年の熊本地震、18年の大阪北部地震など、西日本の内陸で直下型地震が次々に起きた。そしてこれらが増えてピークに達したとき、最後の打ち止めとして2030年代に南海トラフ巨大地震が起きる予測だ。
ちなみに、過去に起きた内陸地震の統計モデルから、次の南海地震が起こる時期を予測すると、「2038年」という数字が得られる。前回の南海地震は1946年に発生し、前々回の1854年から92年後に起きた。1946年にこの92年を加えると2038年となる。
南海地震が繰り返されてきた間隔の単純平均が約110年なので、92年はやや短い。一方、地下のゆがみが回復するモデルからは、次の南海地震の発生時期の予測として「2035年±5年」が得られており、2038年はこの範囲に入るので、防災準備のターゲットとして不都合はない。
地球科学的に言えば、戦後日本が急速に復興できたのは1960年代から始まった高度経済成長期にたまたま直下型地震が少なかったからである。1991年の「バブル崩壊」前に30年近い高度経済成長期を確保できたのは、まさに幸運と言っても過言ではない。
南海トラフ巨大地震は約100年に1回の頻度で発生し、東日本大震災は約1000年に1回の頻度で起き、いずれも内陸地震の頻発と関連する。こうした「長尺の目」を持ちながら喫緊の防災対策を講じなければならない。
■人物略歴
かまた・ひろき
京都大学大学院人間・環境学研究科教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。「科学の伝道師」を自任し、京大の講義は学生に大人気。