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資産運用は「長距離マラソン」のようなものであると言えるこれだけの理由=立沢賢一

アテネ五輪陸上女子マラソン 1位でフィニッシュし金メダルを獲得した野口みずき=アテネ・パナシナイコ競技場で2004年8月22日、小関勉撮影
アテネ五輪陸上女子マラソン 1位でフィニッシュし金メダルを獲得した野口みずき=アテネ・パナシナイコ競技場で2004年8月22日、小関勉撮影

まずはスタート前の準備から

資産形成は生涯という行程を走るマラソンのようなものです。

スタート前の準備として、

(1)資金から生み出された利息や配当金などの果実を長期にわたり再投資して資産を増やす「複利」の考え方を意識しないといけません。これが私が再三再四申し上げている基本中の基本です。

(2)投資資金が充分にある人は幅広い資産に投資して出口での時間の分散も図るとリスク低減が可能となります。投資資金がそれほどない人は分散投資をしない方が資産を増やす事が出来ます。分散投資をしてしまうと却って資産を増やせません。選択と集中が重要です。

(3)インフレ率を上回るような運用を心がければ総資産が実質的に目減りすることはありません。逆に、預貯金投資でゼロリターンを一生懸命心がけている方はインフレ率がマイナスでない限り、確実に資産は目減りしていくことを忘れないで下さい。

確かに今はデフレ時代ですから、預貯金投資でも可処分所得は増えます。しかし、それは物価が下がることによる不可抗力であり、資産が増える訳ではありません。

許容するリスクは「年代別」に設定する

リスクをどれだけ取れるかについて、一般的には、年齢分のパーセンテージを安全資産に投資すると言われます。例えば、20歳代でしたら安全資産に20%とリスク資産80%、60歳代でしたら、安全資産に60%とリスク資産に40%の様にです。

ただ私はこれは適切な物差しだと思いません。資産運用による所得と自らが働いて得られる所得とを合算して投資戦略を練る方がより効率的に資産を増やせるからです。

社会人になって40歳代までは不動産などの実物資産や株式などの金融資産でハイリスクハイリターンを目指すべきです。

50歳代に入り、労働所得が減少した場合、安全資産とリスク資産を半分半分くらいにリスク資産比率を下げるのが良いと思います。労働所得が右肩上がりなら、40歳代までと同じ動きが良いでしょう。

60歳代以降は10年ごとに10パーセントずつリスク資産から安全資産にシフトすれば、保有資産の毀損リスクはかなり低減すると思われます。

目先の価格変動に一喜一憂しないことが最も重要

長い道のりを走っている途中、マーケットの変動で資産価値が大きく目減りすることもあります。それに反応して一喜一憂するのではなく、目先の資産価格変動を意識せず投資し続ける事が長期的に投資を成功させる秘訣です。

定年退職や中途退職を迎えた時、それまで投資した金額が長い期間を走り続けた報酬となります。それにプラスアルファで退職金を当てにできる人もいるでしょう。

そこから次のレースが始まります。次のレースとは退職後から人生が終わるまでに亘り、年金で不足する金額またはそれ以上をこれまで蓄積した資金を運用しながら生きて行くことです。

何もしなければ、年間ある程度の比率で保有資産を取り崩さなければいけないことにもなります。これは御法度です。引き続き、投資活動をすることで、年金の不足分を運用益で未来永劫に賄うことが出来る様にすべきなのです。

現役時代の消費性向は時の流れとともに変貌していきます。実際に、資産家の多くの方々は所謂嗜好品の購入をかなり前から差し控える傾向にあります。恐らく、精神的に物質の購入が可能であると認識してしまうと購入意欲がなくなるのでしょう。物質主義からの脱却とも言えます。

退職後初期には現役時代にできなかった旅行や家族サービスや趣味に資金を多少多めに使うことになるかも知れません。中期には肉体的・精神的な衰えから、生活の行動範囲が狭くなるにつれて生活費が低下するでしょう。そして、後期には医療・介護費さえカバー出来れば、生活費の減少でそれほどの金額はかからないと言われています。

このように、寿命よりも先に資金が枯渇する長生きリスクは老人になる前から準備しておけば十分に避けることができるのです。

とは言え、これからの世界は不確定時代で、未来を予測する事は困難です。例えば、今までの様に、株式市場で短期売買を繰り返していても大きく資産を増やせないのです。

大局的に世界を俯瞰しながら、自分が投資しようとしているミクロの資産がどの様に価値を上下動するかを予測しなければなりません。それが出来なければ、ラスベガスのカジノと何ら変わらない投機(ギャンブル)になるのです。

つまり、国際政治・経済学、真実の歴史学、地政学、宗教学や民俗学を取り入れた未来予知を施さないといけない時代に突入したと言っても過言ではありません。

運良く、私たちは情報化社会の中で生きていますから、それらの情報を直ぐにでも入手できます。しかしながら、同時に、情報過多の状況から正しい情報のみを嗅ぎ分ける嗅覚がなければ誤った分析を施すことになり兼ねません。不確定時代のサバイバル能力を身につけるために、情報リテラシーは必要不可欠なのです。

立沢賢一(たつざわ・けんいち)

元HSBC証券社長、京都橘大学客員教授。会社経営、投資コンサルタントとして活躍の傍ら、ゴルフティーチングプロ、書道家、米国宝石協会(GIA)会員など多彩な活動を続けている。投資家サロンで優秀な投資家を多数育成している。

Youtube https://www.youtube.com/channel/UCgflC7hIggSJnEZH4FMTxGQ/

投資家サロン https://www.kenichi-tatsuzawa.com/neic

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