経済・企業 米中
米国内での使用禁止か、マイクロソフトによる買収か……米国に目をつけられたTikTokは本当にスパイウエアなのか
中国ソーシャルメディア大手の北京字節跳動科技(バイトダンス)が運営する動画投稿アプリ「ティックトック(TikTok)」の、米マイクロソフト(MS)による買収交渉が大詰めを迎えている。ティックトックは、全世界での累計ダウンロード数が20億回に達し、2020年5月の全世界モバイルアプリダウンロード数でもビデオ会議アプリ「ズーム(Zoom)」(米国)を抑え1位になった人気アプリ。MSとバイトダンス間で9月15日までに交渉がまとまらなければ、米政府の規制が発動され米国内での使用が禁じられる。
米国がティックトックを排除する理由は、ユーザーの個人情報が中国に流出するとの懸念からだ。流出問題につてはスイスのセキュリティー会社プロトン・テクノロジーが7月23日に自社のブログで詳しく報じた。
ティックトックのアカウントを開設するためには他のSNS同様、電話番号をはじめ複数の個人情報が求められるほか、連絡先リスト、投稿動画や視聴時間、メッセージなども運営者に把握され、趣味・嗜好(しこう)が丸裸にされる。さらにアプリ内のサービスを通じてクレジットカードなどの支払い情報、IPアドレス、位置データ(GPS座標・WiFi基地局)、端末情報(アンドロイド携帯の場合は、個々の携帯電話の識別とユーザーの追跡に使用されるIMEI番号)から利用者本人のみならず交友関係まで広範囲に把握され、動画投稿に関係のない個人情報が抜き取られている。
世論誘導の手段
ティックトックで動画検索をすると香港の「逃亡犯条例の改訂案に対する抗議デモ」に関連するものが全く見当たらない。アプリ運営者が中国の意向に沿った検閲を行っているとみて間違いなさそうだ。プロトン社は「バイトダンスは過去に中国共産党に抵抗したことは一度もないだけでなく、党の権威主義的政策に何度も協力している」と指摘した。実際、バイトダンスに買収されたインドネシアのニュース配信アプリ「バカベリタ(Baca Berita〈BaBe〉)」が反中国と思われるコンテンツの削除をバイトダンスから求められた。
米国が中国製アプリを警戒する背景には、中国で17年に施行された「国家情報法」がある。同法第7条には「国民と組織は、法に基づいて国の情報活動に協力し、国の情報活動の秘密を守らなければならず、国は、そのような国民及び組織を保護する」とある。
中国人を共産党のスパイとならしめる同法により、どんな企業であれ中国人の従業員がいれば、中国共産党が欲しい情報が無断で持ち出され続けることになる。
今後、MSによる買収が決まっても、情報が中国に流れない新バージョンに移行するのは、通称「ファイブ・アイズ」と呼ばれる機密保護協定で結びついた5カ国のうち、英国を除く、米国、カナダ、豪州、ニュージーランドの4カ国だけだ。
日本の自由民主党「ルール形成戦略議員連盟」は9月にティックトックなど中国製アプリの利用制限について政府に提言する予定だ。実効性を持たせるために、グーグルやアップルのダウンロードサイトから中国製アプリを削除させる措置も検討するとみられる。
(山崎文明・情報安全保障研究所首席研究員)
(本誌初出 米国が人気動画アプリを規制 中国の「スパイ法」を懸念=山崎文明 20200908)