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教養・歴史 アートな時間

舞台 歌舞伎座 九月大歌舞伎 双蝶々曲輪日記 引窓=小玉祥子

中村吉右衛門演じる濡髪長五郎(平成15年1月国立劇場) 撮影/二階堂健
中村吉右衛門演じる濡髪長五郎(平成15年1月国立劇場) 撮影/二階堂健

親子の愛と義理の兄弟の思い 再開場歌舞伎座で人情劇を堪能

 再開場した歌舞伎座の「九月大歌舞伎」は一本立ての4部制。例年なら現・中村吉右衛門の養父、初代吉右衛門を顕彰する「秀山祭(しゅうざんさい)」が華やかに行われる9月公演だが、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、今回は、第三部で「秀山ゆかりの狂言」と銘打った「双蝶々(ふたつちょうちょう)曲輪日記(くるわにっき) 引窓(ひきまど)」が上演中だ。

「双蝶々曲輪日記」は、竹田出雲、三好松洛(しょうらく)、並木千柳の合作による浄瑠璃が原作。作品の主要登場人物である2人の力士、濡髪長五郎(ぬれがみちょうごろう)と放駒長吉(はなれごまちょうきち)の「長」の字にかけて「蝶々」と題された。

「引窓」は全九段の八段目で全段のクライマックス。濡髪は名力士だが、恩のある若旦那を守るため、人を殺してしまう。捕縛を覚悟した濡髪は実母お幸(こう)に会うため、お幸の再婚先で義理の息子が当主の南与兵衛(なんよへえ)宅を訪ねる。お幸と嫁のお早(はや)は喜んで濡髪を2階にあげる。そこへ、自身の亡父と同じ郷代官に取り立てられ、名も南方十次兵衛(なんぽうじゅうじべえ)と改めた与兵衛が意気揚々と帰宅。与兵衛に濡髪捕縛の命が下ったことを知り、お幸とお早は驚く。

 2階からのぞいた濡髪の顔が庭先の手水鉢(ちょうずばち)に映ったのを見た十次兵衛は意気込むが、お早は天井の明り取りの引窓の紐(ひも)を引いて閉め、濡髪が見えないように屋内を暗くする。お幸から濡髪の人相書きを売ってくれと頼まれた十次兵衛は、濡髪がお幸の実子と察する。

 中秋の名月の夜を舞台に、義理の子の十次兵衛、実子の濡髪の2人とお幸の情の物語が展開される。お幸は濡髪を逃がそうとし、濡髪は十次兵衛に義理立てして捕らえられようとする。一方の十次兵衛はお幸の思いを察して濡髪を助けようとする。

 濡髪を中村吉右衛門、南方十次兵衛を尾上菊之助、お早を中村雀右衛門(じゃくえもん)、お幸を中村東蔵が演じる。吉右衛門は久々の本公演への出演となる。

「自粛中に思ったのは、役者は花火にたとえると、花火師であり、花火でもあるということ。打ち上げて空に花を咲かせてこそのものです。皆さんのお心に美しさ、寂しさ、勇気、元気を与えたい。濡髪は早くに父親に死なれて養子に出され、相撲の世界で頂点に立ちましたが、意地から人を殺して逃げています。その子に対する母親の気持ちが『引窓』には凝縮されています。そこをお見せし、『歌舞伎っていいものだな』と感じていただければと思います」と話す。

 菊之助の十次兵衛は初役で、吉右衛門が指導する。「僕は(初代吉右衛門の)養子なので、義理の仲が少しはわかりますが、彼はそうではないので、そこが一番難しいよ、と伝えました」

(小玉祥子・毎日新聞学芸部)

日時 9月26日(土)まで上演中(7日、17日は休演)

会場 歌舞伎座(東京都中央区銀座4−12−15)

問い合わせ チケットWeb松竹

03−3545−2200(10時〜17時)


 新型コロナウイルスの影響で、映画や舞台の延期、中止が相次いでいます。本欄はいずれも事前情報に基づくもので、本誌発売時に変更になっている可能性があることをご了承ください。

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