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教養・歴史 書評

『通貨・租税外交 協調と攻防の真実』 評者・上川孝夫

著者 浅川雅嗣(アジア開発銀行総裁) 聞き手 清水功哉(日本経済新聞編集委員) 日本経済新聞出版 2200円

円高、人民元ショック…… 揺れた国際金融の現場記録

 著者は財務省に38年間勤務し、最後の4年間を財務官として務めた。4年間という長さは過去最長である。この財務官時代を中心に、国際金融や国際租税の分野で長年外交に携わってきた経験を、インタビューに答える形でまとめたものが本書である。意見にわたる部分はすべて個人的見解と断りつつ、「通貨・租税外交のエクサイティングな現場の雰囲気」(まえがき)を伝えたいとのメッセージが込められた書物である。

 冒頭は「円高との戦い」というテーマから始まる。財務官に就いた2015年7月は、アベノミクス下で進んでいた円安が、円高に転じた時点とほぼ重なる。英国が国民投票によってEU(欧州連合)離脱を選択した16年6月には円高が急速に進んだ。だが、その年11月の米大統領選挙でのトランプ氏勝利直後には、予想に反してドルが買われる。次から次へと起きる出来事にどう向き合ったのか、興味深い話が続く。

 財務官任期中に注意を払い続けてきたのが、人民元相場だという。就任直後に人民元が急落し(人民元ショック)、その後も下落圧力が続いた。暴落すると、世界経済は大きく混乱するという認識があった。さらに、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加問題やアジアの地域金融協力の強化についての解説もある。

 昨年5月、ASEAN(東南アジア諸国連合)プラス3(日中韓)の財務相会議で、危機時に基本的にドルを融通する「チェンマイ・イニシアチブ」に円なども加える検討を行うことが決定された。アジア地域におけるドル偏重の是正は、著者が長年携わってきたテーマでもあり、その実現に期待を寄せている。

 租税外交の回顧では、特にアジア人初のOECD(経済協力開発機構)租税委員会議長として、国際課税ルール作りに関わった経験を語っている。最近この分野では「二重非課税」をどう防ぐかが重要になっている。さまざまな国で利益を上げる多国籍企業がタックスヘイブン(租税回避地)などを利用することにより、結局どこの国にも納税していないという問題だ。その対策として取り組んだ「税源浸食と利益移転(BEPS)」プロジェクトは、その後、行動計画も作られ、よりグローバルな取り組みへと発展している。

 通貨・租税外交は激動する国際社会の最前線を照射するものだろう。その経験をまとめた本書は、21世紀初頭の出来事を検証する上での貴重な記録ともいえる。研究者や学生にも広く薦めたい書物である。

(上川孝夫・横浜国立大学名誉教授)


 あさかわ・まさつぐ 1958年生まれ。東京大学経済学部卒業後、大蔵省(現財務省)入省。国際金融や租税分野を担当。2008年のリーマン・ショック時は麻生太郎首相(当時)の秘書官を務めた。著書に『改訂日米租税条約-コンメンタール』がある。

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