ついにデジタル通貨の覇権争いが始まった……『アフター・ビットコイン2』中島真志に聞く、ブロックチェーンと仮想通貨の現在地
◆著者 中島真志さん(麗澤大学経済学部教授)
予想超える速さで実現に向かうデジタル通貨の「本命」を見極める
仮想通貨バブルの渦中の2017年秋に出版された前作『アフター・ビットコイン』で、仮想通貨は「夢の通貨」ではないと指摘した。その年末にビットコイン価格が暴落し、バブルは崩壊する。もう一つ指摘したのが、ビットコインの基盤技術「ブロックチェーン」の応用可能性だ。果たして今、世界各国の中央銀行、民間銀行、企業が、三つどもえでブロックチェーンを使ったデジタル通貨の開発競争を繰り広げている。前作から2年半を経て上梓(じょうし)した第2弾は次代の通貨の本命を見極めることと、予想を超える速さで動く世界の実情を日本に伝える狙いがある。
「中央銀行が発行するデジタル通貨なんて当分先と考えている人が多い。でも、現実は中国が“デジタル人民元”の発行を目前に控えるなど事態は切迫しています」
乗り遅れてはいけないのか。
「紙幣を刷り、全国に運び、両替するといった“現金を扱うコスト”は年間7兆円に上るとの試算もあります。スマートフォン一つで何でもできる時代に、おカネだけはリアルという“デジタルとの不整合”は国民経済的に大きなロスを生みます」
デジタル通貨が基本的な社会インフラになる可能性も挙げる。
「決済や電子商取引の新サービスが乗るようなインフラで、世界標準を中国に取られたら大変だという強い危機感を欧米の当局は持っています。一方、そこまでの認識がない日本は、まず海外がどこまで進んでいるのかを知ることから始める必要があります」
本書の第Ⅰ部では、フェイスブックが計画した新通貨「リブラ」の挫折を通じて民間発行通貨の限界を示した。第Ⅱ部では再び仮想通貨に目を向け、金融取引を可能にする安定性獲得の難しさを指摘する。そして最終の第Ⅲ部では本題の「中央銀行デジタル通貨」の最前線に切り込む。
「決済の最終手段として使える“強制通用力”と譲渡が繰り返されて広がる“転々流通(てんてんりゅうつう)性”を備えたデジタル通貨の発行は中銀の仕事。それが本来あるべき姿でしょう」
中銀デジタル通貨をリブラや仮想通貨の対極に置いてみせたのは、デジタル通貨の“真打ち”になるという見立てからだ。
「中銀が発行するメリットは“信頼性”にあります。歴史を振り返ると民間発行の通貨はどれも20~30年で消えています。その失敗に学び、統一された通貨を発行する公的機関として中央銀行を生み出したのは、人類の知恵でした」
では、デジタル通貨の舞台では、民間には未来がないのか。
「通貨の基盤となるブロックチェーンのような技術と、その上で動く決済や売買の新しい仕組みの創出は中銀の苦手な分野。そんなイノベーションこそ民間の出番になるはずです」
(聞き手=大堀達也・編集部)
(本誌初出 『アフター・ビットコイン2 仮想通貨vs.中央銀行』 著者・中島真志さん 20200908)
■人物略歴
なかじま・まさし
1958年生まれ。81年一橋大学法学部卒後、日本銀行入行。金融研究所、国際局、国際決済銀行(BIS)などを経て麗澤大学経済学部教授。決済分野の専門家として金融庁の審議会などにも参加。著書に『アフター・ビットコイン 仮想通貨とブロックチェーンの次なる覇者』など。
「読書日記」は月に1度、著者インタビューになります。