教養・歴史書評

クラウドファンディング隆盛のウラ=永江朗

 最近、クラウドファンディング(CF)による出版をよく耳にするようになった。CFとは、インターネットを使って多数の人から資金を集める手法。出版のほか、映画製作やアートプロジェクトなど多様なジャンルで利用されている。キャンプファイヤーをはじめ、多くのCF会社があるが、どのサイトを見てもさまざまな出版プロジェクトが並ぶ。

 CFによる出版がよく知られるようになったきっかけは、お笑いコンビ「キングコング」の西野亮廣さん(作家名・にしのあきひろ)が2016年に出版した絵本『えんとつ町のプペル』(幻冬舎)。30人を超える作家による分業で作画し、その費用をCFで調達した。発売から3年で40万部を超える大ヒットとなった。

 出版界でCFが広がる理由の一つは、以前からある予約出版という方式に近いからだろう。出版物そのものが出資者へのリターンとなる。近代出版史に残る予約出版といえば、1926年末から30年ごろにかけて起きた「円本ブーム」。改造社が1冊1円、完全予約制の『現代日本文学全集』の刊行を始めて大成功し、新潮社や春陽堂などが次々と参入した。当時、改造社は倒産寸前だったが、集めた予約金で息を吹き返したと言われている。

 CFには、目標金額に達した場合だけ資金がプロジェクト制作者に渡る「オール・オア・ナッシング方式」(不成立のときは出資者に払い戻される)と、目標金額に達しなくても集まった分だけ制作者に渡る「オール・イン方式」がある。

 現在、小さな新興出版社の場合、書店での売り上げが取次業者から支払われるのは半年以上先だ。しかも支払額の2割程度が留保されることも多い。その間も、著者への印税や紙代、印刷・製本会社への支払いは発生する。一方、CFでは月末締め翌月末入金(キャンプファイヤーの場合)だから、資金力のない出版社には魅力的だ。また、オール・オア・ナッシング方式であれば、支援者(予約者)の数が少なければ出版を取りやめることになるので、失敗のリスクも最小限にできる。CF出版隆盛の裏には、取次業者を中核にした出版流通システムの問題点が隠されている。


 この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。

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