教養・歴史書評

アメリカ トランプ包囲網、3冊の暴露本いずれも話題に=冷泉彰彦

 2017年の大統領就任以来、トランプ政権関係の暴露本は数多くベストセラーとなってきた。更にこの秋は3冊の新しい暴露本が出版されて、いずれも話題になっている。

 まず、『ワシントン・ポスト』紙の記者ボブ・ウッドワードによる『激怒(“Rage”)』には、コロナ対策の初動における大統領の不誠実な姿勢を中心に大きな反響がある。

 ウッドワードは歴代大統領の周辺に深く入り込んでインタビューを集め、任期の前半にはやや客観的なドキュメントを発表。任期の後半には思い切った暴露を行うことが多い。特にジョージ・W・ブッシュ政権末期に発表された『ブッシュのホワイトハウス(“State of Denial”)』は政権へのダメージとなった。今回も同様のインパクトが広がっている。

 続いてトランプ大統領の顧問弁護士を務めていたマイケル・コーエンの『裏切り(“Disloyal”)』もよく売れている。コーエンは、就任以前のトランプの企業内弁護士や法律顧問としてトランプ・オーガニゼーションや大統領個人の内情を知る人物であり、現在は偽証罪などで服役中の身だ。本書は、画期的な新事実の暴露はないものの、まるでマフィアのボスに命じられて顧問弁護士がトラブル処理に奔走するような状況が活写されている。特に、「大統領は私に死んでもらいたいだろうし、少なくとも私が死んでも意に介さないだろう」という一言は、13年にわたってトランプに仕えていた人物の発言だけにゾッとさせる迫力がある。

 メラニア夫人の顧問を努めていたステファニー・ウィンストン・ウォルコフ氏の『メラニアと私 ファーストレディーとの友情の一部始終(“Melania and Me The Rise and Fall of My Friendship with the First Lady”)』には、そこまでの憎悪や告発は描かれていない。ヴォーグ社で「METガラ」などのイベントを運営してきた著者は、あくまでメラニア夫人は誠実な人物だとして、反対に夫のトランプは不誠実だと突き放しながら、トランプの家庭内不和などを暴露して話題を呼んでいる。ちなみに、現時点でのアマゾン社「最も売れている本ランキング」では、ウッドワード本が1位、コーエン本が2位、ウォルコフ本が7位となっている。

(冷泉彰彦・在米作家)


 この欄は「永江朗の出版業界事情」と隔週で掲載します。

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