教養・歴史書評

『統計 危機と改革 システム劣化からの復活』 評者・小峰隆夫

    著者 西村淸彦(政策研究大学院大学特別教授)山澤成康(跡見学園女子大学教授)肥後雅博(日本銀行京都支店長) 日経BP 3500円

    停滞の一因となった認識不足 改善のための基礎知識を提示

     本書は、政府統計の司令塔ともいうべき統計委員会で、外部有識者として統計改革に携わってきた3人の専門家が、その活動を詳しく述べたものである。

     第Ⅰ部では、なぜ統計改革が必要なのかを明らかにした上で、これまでの統計改革の歩みが説明される。著者らの経済統計についての危機感は圧倒的で、「30年にわたる経済の停滞と、それに対して的確な対処ができなかった一つの理由は、日本経済の急速な構造変化を経済統計が的確に捉えていなかったことである」とまで述べている。

     第Ⅱ部では、景気関連統計が取り上げられる。2018年末以降、景気統計の重要な一角を占める毎月勤労統計で多くの問題が指摘されたことは、経済統計に関心を持つ人々に大きなショックを与えた。本書では、その経緯、影響、改善の方向などが詳しく述べられている。

     既存の統計のカバレッジ(網羅率)についての指摘の中で私がかなり驚いたのが、税務情報と突き合わせてみると、企業についての国勢調査とも言うべき経済センサス(実態調査)においても企業数で実に87万社(約3割)もの漏れがあるという指摘だ。

     第Ⅲ部では、GDP(国内総生産)統計の持つ問題点とその具体的な改善方法が論じられる。この点については、統計委員会の議論が契機となって、内閣府が19年8月から家計の可処分所得、家計貯蓄率などの公表を行うようになったのは大きな成果だといえる。

     そして第Ⅳ部では、既存の統計では捕捉が難しいシェアリング・エコノミー、インターネット上の無償サービスをどう扱うかが論じられ、従来型の統計データを代替するものとしての民間データや行政記録情報の活用が論じられている。

     日本の統計は、各府省がそれぞれ統計を作成する「分散型」である。分散型だと、それぞれの府省において、統計整備という仕事が脇役となりがちで、人材の育成や、予算・人員の確保が難しくなるからだ。かといって今さら集中型にすることは不可能だ。すると、残された道は、しっかりした分析力と権限を備えた機関が、各府省の統計を監視し、必要な改善を提言していくことしかない。それがまさに本書の舞台となった統計委員会の役割だと言える。

     統計が正しい方向で整備・充実していくためには、できるだけ多くの人が統計の重要性を認識し、それを積極的に使っていくことが必要だ。本書はそのための重要な基礎知識を提供してくれる。

    (小峰隆夫・大正大学教授)


     西村清彦(にしむら・きよひこ) 日本銀行副総裁等を経て、現在に至る。

     山澤成康(やまさわ・なりやす) 日本経済新聞社、日本経済研究センター等を経て現職。

     肥後雅博(ひご・まさひろ) 総務省参与等を経て2019年より現職。

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