教養・歴史書評

『現代社会資本論』 評者・上川孝夫

編者 森裕之(立命館大学教授)諸富徹(京都大学大学院教授)川勝健志(京都府立大学教授) 有斐閣 2900円

新たな公共性の構築に向け 地域の「内発的発展」を

 大型台風や地震が頻発し、大規模な災害が後を絶たない。人口減少と少子高齢化が進む中、身近にある自治体は財政難や人手不足に直面し、施設の老朽化問題を抱える。そこに今回の新型コロナウイルスの大流行である。いったい維持可能な社会にするには、どうすればよいのか。14人の執筆陣が、現代の社会資本の実態や政策動向を検証し、今後のあり方を論じている。

 日本の社会資本は、これまで道路、ダム、上下水道のようなハードな施設に重点をおいてきたが、喫緊の課題は老朽化対策である。本書にはその実態や財政措置が詳しく解説されているが、社会資本の大部分を管理する自治体の状況は厳しく、維持管理・更新費が賄えなくなる可能性もあるという。1980年代から社会資本の民営化、あるいは業務の民間委託が進んでいるが、市民が平等に利用できるサービスをいかに供給するか。社会資本の「公共性」がますます問われていると指摘する。

 一方で、現代の社会資本はその内容も変化している。高度成長期の工業社会から、グローバルな情報通信に支えられたサービス社会へと変化し、ハードな施設の建設よりも、ソフトなサービスが重視されるようになっている。地球環境問題とともに、エネルギーも、集中型の石炭火力・原子力から、分散型の自然エネルギーへの転換が求められている。居住福祉、グリーンインフラ(公園・緑地・農地)、地域エネルギー、文化・観光など、社会資本の新たな課題が検討されているのも本書の特徴だ。

 社会資本の充実という課題の前に立ちはだかっているのが、日本財政の危機的な状況である。自治体は、広域連携や官民役割分担、都市・農村の連携、市民参加型行政などさまざまな模索を続けているが、なによりも地域を支援する金融システムや税財政改革が不可欠だと説いている。

 かつて『社会資本論』(有斐閣、初版67年、改訂版76年)を世に問うた宮本憲一氏(大阪市立大学名誉教授)が本書の執筆に加わっている。経済学は、社会資本や都市、環境などを市場経済の「外部性」としてきたが、これらは人間の共同社会の基礎条件であり、政治経済学の対象だと指摘している。編者によれば、本書は同書の基本的視点を継承している。

 新型コロナは人命や健康を守るライフラインの重要性を再認識させるとともに、グローバル資本主義の脆弱(ぜいじゃく)性を明らかにした。地域の「内発的発展」にもとづく強靭(きょうじん)な社会経済システムの確立が必要だという本書の主張にも説得力がある。

(上川孝夫・横浜国立大学名誉教授)


 森裕之(もり・ひろゆき) 『公共施設の再編を問う』などの著作がある。

 諸富徹(もろとみ・とおる) 著書に『私たちはなぜ税金を納めるのか』など。

 川勝健志(かわかつ・たけし) 著書に『現代租税の理論と思想』(共著)など。

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