経済・企業 日本車があぶない!
日本車は新興メーカーに敗北する……「時価総額でテスラがトヨタ超え」の危険な意味
新型コロナウイルスの影響で世界経済は大きな打撃を受けているが、とりわけ日本にとって影響が大きい産業といえば、自動車産業がその筆頭だろう。
自動車製造品出荷額が約62兆円、関連産業従業員数が542万人(JAMA、2018)と、日本経済において極めて大きなウエイトを占めるのが自動車産業である。
それがもし倒れるようなことがあれば、日本経済への悪影響ははかり知れないものとなる。
『図解EV革命』(毎日新聞出版)などの著書がある村沢義久氏が、日本車のゆくえを斬る連載、第1回をおとどけする。
ガソリン車という古い産業、EVという新しい産業
2020年の世界の自動車産業における最大のできごとは、株式時価総額でテスラがトヨタを抜いて「業界世界一」になったことだ。
春以来テスラの株価が急上昇し、2020年7月1日の終値ベースで、時価総額が2340億ドル(約24兆7000億円)となった。
一方のトヨタは日本市場の1日終値ベースで21兆7185億円。
この日以来、テスラがトヨタを抜いて自動車メーカーで世界首位に立った。
テスラ株はその後も上がり続け、10月末時点ではトヨタに対して70%程度の大差をつけている。
ちなみに、2017年4月にテスラに抜かれたGMの時価総額は、現在テスラの8分の1しかない。
さて、上で「自動車業界最大のできごと」と言い、「テスラがトヨタを抜いた」と言ったが、実は、この表現は正確ではないと思っている。
テスラの時価総額がトヨタのそれを上回っていることは確かだが、かといって企業活動の全体でトヨタを「抜いた」のではないだろう。
なぜなら、テスラとトヨタ、この2つの会社はまったく別々の産業に属していると考えるべきだからだ。
すなわち、トヨタは古い「自動車産業」に属し、テスラは新しい「EV産業」に属している。
だから、その時価総額を比較しても、リンゴとミカンの大きさを比べるようなもので、あまり意味はない。
コロナ・ショックが産業シフトを促進?世界の潮流から取り残される日本車
従来型自動車産業はコロナの影響をもろに受けている。
一番深刻なのがヨーロッパで、2020年の年間販売台数は25%程度の落ち込みが見込まれている。
次いで、アメリカは20%強の減少と予想されている。
その一方で、最初に感染が拡大した中国では早期収束と共に車の販売も急回復し、落ち込み幅は10%強で済みそうだ。
日本は欧米と中国の中間の10数%のマイナスというところだろうか。
この落ち込みから回復するには数年かかると言われているが、筆者は、ガソリン車・ディーゼル車の販売台数は元に戻らないのではないかと見ている。
確かにコロナの影響による販売台数の減少は一時的なものではあるだろう。
だが、その落ち込みから世界の自動車市場が回復するころには、ガソリン車・ディーゼル車の需要が大きく減少し、代わりにEV需要へとシフトしていると思われる。
とは言え、さすがのEV産業も、短期的にはコロナの影響を逃れることはできず、2020年上半期(1月~6月)の世界の電動車(EV+PHV)の販売台数は前年同期比で18%程度の減少となった。
しかし、7月には67%アップと急反発しており、古い自動車産業の苦戦をしり目に、逆に勢いを増しつつあるところだ。
その勢いは株式市場にも反映されている。
アメリカのアナリスト達は「2020年はEVの年」と言い、実際にEV関連株が非常に活発に取引されている。
その筆頭格がテスラだが、アメリカ市場に上場した中国新興メーカー群の勢いも増している。
そんな中で、日本の自動車産業、EV産業は世界の大きな潮流から取り残されつつある。この件について、次回以降で詳細にリポートしていきたい。
村沢義久(むらさわ・よしひさ)
1948年徳島県生まれ。東京大学工学部卒業、同大学院工学系研究科修了。スタンフォード大学経営大学院でMBAを取得後、米コンサルタント大手、べイン・アンド・カンパニーに入社。その後、ゴールドマン・サックス証券バイス・プレジデント(M&A担当)、東京大学特任教授、立命館大学大学院客員教授などを歴任。著書に『図解EV革命』(毎日新聞出版)など。