教養・歴史書評

『ESG投資とパフォーマンス SDGs・持続可能な社会に向けた投資はどうあるべきか』 評者・平山賢一

編著者 湯山智教(金融庁) 金融財政事情研究会 2400円

持続可能な企業育成に向け、投資の役割を探る

 本書は、企業の環境(Environment)、社会(Society)、ガバナンス(Governance)に対する取り組みを指標化したESGスコアを基にするESG投資と、その成果(パフォーマンス)に関する国内外の研究成果を整理したものである。企業の持続可能性(サステナビリティー)への関心が高まっている昨今、グローバルな研究成果を網羅しており、時宜を得たものとなっている。

 各種のESGスコアは、その範囲や推計方法、ウエート付けがまちまちであり、各投資パフォーマンスとの関係も一義的に比例関係にあるとは言えないことが示されている。また、ESG活動そのものを評価する「質的スコア」と「ESG開示スコア」は混同されがちだが、その峻別(しゅんべつ)を図るべきとの指摘も重要だろう。

 特に興味深い点は、株式投資の領域だけではなく、債券投資における信用度(調達金利)とESGスコアの関係にも視野を広げている点である。今後は、不動産やプライベートエクイティー(未公開株式)といったオルタナティブ資産でのESG投資のさらなる拡張を予兆させる。

 ところで、主流派経済学は、公開情報はすぐに織り込まれてしまうため、新たな情報を用いて市場を出し抜くことはできないという意味で、市場は効率的であるとする。対してESG投資は、ESGへの着目で超過収益率を獲得できると考え、両者は相いれないはず。そこで、ESGに関わるリスクは、市場参加者によって十分に検証されていないため、それが達成されるまでは、市場の効率性の度合いは低いとする適応的市場仮説が紹介されている。この観点は、ESG投資の理論的基盤を固める上で非常に重要である。

 実務的な関心では、ESGの質的スコアの「水準」だけではなく、その「変化」と投資成果の関係に注目したい。質的スコアの変化に対する投資家による企業との対話の有効性が、広く計量的にも実証されることになるからだ。ESGの改善モメンタム(相場の勢いを判断する指標)による投資の有効性が確認されるかどうか、気になるところである。

 一方で、ガバナンスに関する要素が比較的短期のパフォーマンスを左右する傾向があるのに対して、環境や社会に関する要素は、長期間にわたる検証が求められる点は注意が必要である。特に質的スコアのデータ期間に制約があることから、長期間にわたる定量的検証は難しい。今後のデータ蓄積が待たれるとともに、10年後の続編も読んでみたい。

(平山賢一・東京海上アセットマネジメント執行役員運用本部長)


 湯山智教(ゆやま・とものり) 2001年に金融庁入庁。その後今年7月まで東京大学公共政策大学院特任教授を務め、金融庁に帰任。著書に『金融資本市場と公共政策 進化するテクノロジーとガバナンス』(共編著)など。

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