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イタリアより「断然まし」なのに「パニくってしまう」……日本人にはもう少し「コロナへの勇敢さ」が必要だ

報道陣をかき分けながら菅義偉首相との会談に向かう小池百合子都知事(中央)=首相官邸で2020年12月1日午後6時25分、玉城達郎撮影
報道陣をかき分けながら菅義偉首相との会談に向かう小池百合子都知事(中央)=首相官邸で2020年12月1日午後6時25分、玉城達郎撮影

「GoToキャンペーン」をめぐる混乱が続いている。

「経済優先」の政府に対して、「感染対策優先」をつきつけたのが東京都の小池知事だ。

小池知事は1日夜に菅首相と会談、東京都発着については65歳以上と基礎疾患を持つ方を対象に自粛要請をする方向で同意したと報じられている。

「経済かコロナ対策か」で「険悪なムード」なのは、なにも菅首相と小池知事に限った話ではない。

マスコミでもネットでも「経済優先」VS「感染対策優先」の戦いはヒートアップし、互いに妥協点を見いだしがたい状況だ。

ただ、日本にいま必要なのは「コロナを克服するための議論」であって、「互いの足の引っ張り合い」ではないようにも思うのだが・・・・・・。

世界最悪のコロナ第1波を経験したイタリア在住のTVディレクター、仲宗根雅則氏の論考をお届けする。

日本の過去最多記録は欧州の過去最小記録でしかない

日本政府がGo Toキャンペーンの見直しを発表したのは、日本国内の1日の新型コロナ感染者数が連日過去最多記録を塗り替え続けていた11月21日のことです。

当日の感染者数は2596人で国内においては当時の過去最多となりました。

このとき日本政府は不安がる世論に煽られ「仕方なく」政策を転換したように見えました。

コロナ感染者数が連日過去最多を更新、という状況はここイタリアでも起こっていて、最近では

10月22日から25日にかけてフランスでも発生しています。

その当時のフランスにおける1日の感染者数の過去最多記録は5万2010人。

日本の20倍以上です。

これを受けてフランスでは10月30日から2度目のロックダウンを導入しました。

フランスに限らず、欧州の国々は急拡大する新型コロナの感染状況に合わせて断固とした施策を打ち出しています。

イタリアに限って言えば既に3月10日、世界初のそして世界最悪の「コロナ地獄」に陥った際、これまた世界一過酷とされた「全土封鎖」レベルのロックダウンを断行して危機を脱しました。

第1波で多くのことを学んだイタリア政府は、第2波以降においても、感染防止と経済運営の落としどころを見極めつつ、いわば部分的ロックダウンともいえる規制策を導入して対抗しました。

それが功を奏し、イタリアはクリスマスに向けて一息つける状況にまでなりました。

イタリアのみならず、先のフランス、そしてイギリスやスペインも現在は状況が少し落ち着きをみせています。

そうはいうものの、欧州の感染状況は依然として危機的です。

1日あたりの感染者数はほぼ常に日本の15、6倍にのぼり、欧州の優等生のドイツのそれでさえ10倍前後の割合で推移しています。

累計の感染者は言うまでもなく、重症者数も、死者数も、日本とは比較になりません。

幸運なはずの日本の対応は少し見苦しい

日本は新型コロナの脅威にさいなまれている世界の国々の中では圧倒的に恵まれています。

それが国の施策故か全くの幸運かは判然としませんが、たとえば先に猛威を振るった第1波で、世界最悪のコロナ地獄に見舞われたここイタリアに比較すれば、日本は文字通りの「天国」です。

ですが欧州から眺めると、新型コロナの前で日本は「常に」慌てふためき、うろたえまくっているように見えます。

コロナ禍が始まった当初から日本政府の動きはいつもちぐはくでした。

政府だけでなく、日本国民は恐怖に全身を鷲掴みにされ、必要以上に臆病で、コロナを恐れるがあまり、いつも怒っているように見えます。

それは第1波が過ぎ夏の第2波でも変わるどころか、第3波でも悪化の一途をたどっているようにさえ感じます。

政府は取り乱し、影響力のある論者や知識人や専門家は、国民の恐怖を煽り、狼狽する政府につけこもうとしています。

ある人々は経済だけを優先しろと叫び、もう片方の勢力は感染防止のためにあらゆる経済活動を停止しろ、とわめいていますが、本来これらは両立させるほかないのは明らかです。

極端と極端の板ばさみになった政権はさらにうろたえ、方針転換を繰り返す、という体たらくです。

イタリアの経験した「コロナ地獄」

とはいえ、全ての国の在りようは当初は日本とそっくり同じでした。

民主主義国家も独裁国家も宗教国家も、あらゆる国が見たこともないパンデミックに翻弄され苦しみました。

その最たる例がここイタリア共和国です。イタリアは前述のように世界で最初の、そして最大の「コロナ地獄」に陥り、辛酸を舐めました。

	真新しい墓石が並ぶイタリア北部ベルガモの墓地。刻まれた命日は3月と4月に集中していた=2020年10月13日午後4時47分、久野華代撮影
真新しい墓石が並ぶイタリア北部ベルガモの墓地。刻まれた命日は3月と4月に集中していた=2020年10月13日午後4時47分、久野華代撮影

それは2月21日から23日にかけて始まり、欧州でも一級の医療体制を整備している北部ロンバルディア州は、突如として感染の「爆心地」となって、あっという間に医療崩壊へと陥りました。

医療崩壊が始まったころのイタリアは、いま振り返って見ても本当に怖い状況でした。

当時イタリアには見習うべき規範がなく、国民は前例のない修羅場に孤立無援のまま投げ込まれました。

筆者の周りにおいてさえ人がバタバタ死んでいきました。

イタリアは徹頭徹尾、独力でコロナの恐怖と対峙するしかありませんでした。

世界一苛烈で且つ世界一長い期間に渡るロックダウンを導入して、イタリアは危機をいったん克服しました。

しかし、払った代償は大きく、イタリアは第1波がほぼ収まったと見られる6月30日時点で24万578人の感染者と3万4千767人の犠牲者を出しました。

犠牲者の中には173人もの医師が含まれています。

医師が犠牲となる傾向は残念ながら第2波でも受け継がれ、2020年12月1日現在では、5万6千人余りの患者と222名もの医師が新型コロナで死亡するという惨状を呈しています。

老医師たちの見せた自己犠牲と敢闘精神

第1波のロックダウンではイタリア国民はほぼ2カ月間もの自宅待機を強いられました。

食料の調達と病気の治療以外の目的で家を出ることを禁じられ、外出時には許可証を携帯しなければなりませんでした。

病院にはコロナ患者があふれ、埋葬できないほどの数の死者に対応するため、軍のトラックが列を成して遺体を運ぶ、という凄惨な情況まで出現しました。

医療機器の足りない病院では、医師や看護師を始めとする多くのスタッフが、死と隣りあわせで働き続けました。

その様子は連日連夜テレビをはじめあらゆるメディアで報道されました。

自宅に縛り付けられてなすべきこともない人々は、普段にも増してテレビ画面に見入りました。

身近な人間がコロナに侵され、倒れていく姿を目の当たりにしたイタリアの人々は、その恐怖に加え、医療現場の「地獄絵図」を見せつけられ、たやすく恐慌に陥りました。

その恐慌はしかし、彼らに勇気を与え自信を植え付ける方向へと静かに変容していきました。

実は、次のようなエピソードがあったのです。

イタリアのコロナ地獄がピークを迎えた頃、医師不足を補うため、退職医師を対象に300人のボランティアを募集したところ、募集人員の25倍以上、およそ8000人もの応募があったのです。

周知のように新型コロナは高齢者ほど重症化しやすく、死に至ることもある病気です。

退職医師はほとんどが高齢でリタイアした人々ですので、当然彼らは「重症化と生命のリスク」を理解したうえで、命を賭したのです。

老医師たちの勇気ある行動はイタリア全土を鼓舞した(写真はミラノの医療現場、LaPresse/共同通信イメージズ)
老医師たちの勇気ある行動はイタリア全土を鼓舞した(写真はミラノの医療現場、LaPresse/共同通信イメージズ)

加えて当時のイタリアの医療の現場は、当局の見込み違いもあり、患者が病院中にあふれ返っていて、医師と医療スタッフを守る器具はもちろん、マスクや手袋さえ不足している「異常事態」でした。

高齢の退職医師たちが感染するリスクは極めて高かったのです。

8000人もの老医師たちはそれでも死の恐怖渦巻くコロナ戦争の最前線へと、果敢にも突撃したのです。

何もしなければ安穏な年金生活を送れたにもかかわらず。

彼らの使命感と自己犠牲をいとわない敢闘精神は、ひそかにイタリアの人々の「心」を震わせました。

しかも、このエピソードは当時のイタリアにおいてコロナと勇敢に闘った人々の、ほんの一例に過ぎないのです。

ボランティアはイタリア最大の産業

イタリア最大の産業はボランティア、という箴言があります。

イタリア国民はボランティア活動に熱心です。猫も杓子もせっせと社会奉仕活動にいそしみます。

彼ら善男善女の無償行為を賃金に換算すれば、莫大な額になります。

まさに「イタリア最大の産業」というわけです。

彼らのボランティア精神は新型コロナの第1波の恐慌の中でも存分に発揮されました。

苦しいロックダウン生活の中、救急車の運転手ほかの救命隊員、市民保護局付けの救難・救護ボランティア、困窮家庭への物資配達や救援、介護ボランティアとして多数の一般市民が大活躍しました。

8000人もの老医師が、ウイルスとの戦いの前線に行くという勇敢な行動をとったのも、根っこは同じです。

他国の状況を見れば日本はもう少し落ち着けるはずだ

欧州では連日、先に触れたように日本の10倍から15、6倍にもなる数の感染者と死者と重症患者が出ています。

各国はロックダウンやそれに類する厳しい行動規制を敷いて感染拡大を食い止めようと必死に動き、それなりの成果を収めています。

ここでいう成果とは、感染の抑制に成功したという意味ではありません。

欧州が第1波の恐怖と絶望の時間を経て、感染拡大と共存する方法を日々学んでいる、という意味です。

悲惨な第1波の洗礼を受けたイタリアでも、それを冷静に受け止めてコロナに対して勇敢に立ち向かっています。

第2波ではイタリアよりも被害が大きかったフランス、スペイン、イギリス等においても、パンデミックに毅然と対峙し、パニックには陥っていません。

沈着なドイツに至っては、ロックダウンを12月20日まで延長して、より良い環境で国民にクリスマスを迎えてもらおうとしているほどです。

それなのに日本の体たらくはどうでしょう。

イタリアに住んでいると、欧米に比べれば大したことのない感染者数にも関わらず、日本人は慌てふためき、悲鳴を上げ、錯乱しているように見えます。

ほんの少しの状況の悪化にも「パニくっている」日本人は少し見苦しいとさえ感じます。

繰り返しますが、コロナ禍中の世界の国々の中で、経済も医療も社会状況も、日本は依然として良好である「幸運な国」です。

今こそ日本人はもう少し勇敢さを発揮し、気持ちを落ち着かせるべきではないでしょうか。

仲宗根雅則(なかそね まさのり)

TVドキュメンタリー・ディレクター。イタリア在住。

慶應義塾大学、ロンドン国際映画学校卒。東京、ニューヨーク、ミラノの順にドキュメンタリー、報道番組を中心に監督、制作。米PBSのド キュメンタリー・シリーズ「Faces of Japan―のりこの場合」により、モニター賞ニュース・ドキュメンタリー部門最優秀監督賞受賞(ニューヨーク)。1990年以降、イタリア・ミラノの番組制作プロダクション「ミラノピュー」代表。フリーランス兼ブロガー(自称)となってからは、方程式【もしかして(日本+イタリア)÷2=理想郷?】の解読にも頭を悩ませている。

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