米国でEVメーカーが「ぞくぞく誕生」の一方、日本車メーカーは「危機的状況」の理由
2020年第1四半期(1~3月)、米カリフォルニア州で最も売れた車はテスラの「モデル3」だった。
3カ月間の販売台数は1万8856台で、2位のホンダ「シビック」が1万8001台。
さらに驚くべきことに、モデル3は全米でも同時期のベストセラーカーの8位にランクインしている。
上半期のEV(電気自動車)販売台数で比較すると、1位がモデル3で3万8314台、2位が同じくテスラ「モデルX」9500台、3位がシボレー「ボルト」8370台、4位がテスラ「モデルS」4700台、5位日産「リーフ」3006台となっている。
今年の米国のEV総販売台数は34万5000台程度が見込まれ、来年にはこれが7割増の58万5000台前後と予想されている(EVAdoption.comより)。
その中でモデル3のシェアは全体の35%を占めるが、来年には21%に下がると予想されている。
なぜなら、来年にはテスラが廉価版の「モデルY」を発売する。
さらにフォルクスワーゲンの「ID・4」、日産の新型クロスオーバー「アリア」、フォードマスタングの「マッハE」などが市場に投入され、そこに新興EVメーカーの新しいモデルが加わって本格的なEV市場が実現するためだ。
リビアン、ルシード
来年以降の発売が予定されている新興メーカーにはリビアン、フィスカー、ルシード・モータース、ファラデーフューチャー、ニコラ・モーター、ローズタウン・モーターズなどがある。
勢いがあり、現在、最も「打倒テスラに近い」とされているのがリビアン社だ。
ミシガン州に本社を置き、SUV(スポーツタイプ多目的車)の「R1S」、ピックアップトラックの「R1T」の二つのモデルを持つ。
同社はアマゾンからデリバリー用のEVバン10万台の注文を受けたことも話題で、さらにはフォードから5億ドルの出資を受けている。
フィスカーは一度破綻したフィスカー・オートモーティブ社CEO、ヘンリック・フィスカー氏が新たに立ち上げた企業で、「オーシャン」というSUVモデルを22年に発売予定。
リサイクル部品や素材を多用したオーシャンは、ベース価格が3万ドル(315万円)を切る設定になっている。
ルシードも独自のバッテリー技術により航続距離が800キロ以上になる、と発表しており、技術力に注目が集まるメーカーだ。
同社の「ルシードエア」は6万9990ドル(734万円)からの価格で、さらにSUVモデルも開発が進められている。
ファラデーフューチャーもルシードと似た高級モデルのEV「FF91」を発売予定だが、発売日、価格などは未発表だ。
ニコラは虚偽広告問題でつまずいた感があるが、EVピックアップトラックとFCV(水素燃料電池車)の大型トラックを開発する企業で、ゼネラル・モーターズ(GM)がその技術に注目し提携を進めていたことで話題を集め、一時株価が高騰した。
ローズタウンも同じくEVピックアップに特化したメーカーで、こちらにもGMが出資を行っている。
フォードは独自にF150ピックアップトラックのEVバージョンを開発しているが、大手がピックアップに注目するのは米国では新車販売の半分以上をピックアップなどのライトトラック系が占めており、こうしたモデルへの人気は衰えない、という予測からだ。
しかし大手自動車メーカー、新興メーカーが次々にEVモデルを発表したとしても、テスラの独走を止めるのは難しそうだ。
テスラにはコンパクトクラスのモデル3からSUVのモデルX、高級車のモデルS、ピックアップトラック、そしてミニバンのモデルYと、ほぼすべてのラインアップがそろう。
しかも商業用の大型トラック「セミ」まで有している。
価格面でもモデル3は「スタンダード・レンジプラス」という後輪駆動のものがベース価格3万7990ドル(398万円)からだ。
同社CEOイーロン・マスク氏は23年には価格が2万5000ドル(262万円)程度のEVを出すとしており、他社がこの価格に対抗するのは現時点では困難だ。
テスラがこうした価格を実現できるのはディーラーを通さず、広告も一切打たずに車を販売できるだけの知名度と話題性を提供し続けてきたためでもある。
またテスラのモデル3は中国でもEVの販売台数でナンバーワンだが、ドイツにも新工場を建設し、グローバルに販売展開を行っている。
これまでにモデル3は世界で50万台以上を売り上げた。
特に欧州では早いところで25年からのガソリン・ディーゼル車の販売禁止を掲げている国もあり、EV販売が急速に伸びている。
テスラの株価総額がトヨタを超えたことが話題になったが、バブルとは言い切れない。
日本車は遠く及ばず
米国ではカリフォルニア州が35年からのガソリン・ディーゼル車の州内での販売禁止を打ち上げたが、これに追随しようという州がニューヨークなど23州に達している。
カリフォルニア州内ではEV用チャージステーションの建設も進んでおり、EVそのものの継続走行距離も伸びている。
現在カリフォルニアでEVを買うのは年収6万ドル(630万円)以上の中流層以上だが、モデル3がベストセラーになったことを考えると、EV利用者の裾野は確実に広がっている。
こうした動きに果たして日本車は対抗しうるのか。
唯一EV市場で善戦しているのは日産だが、販売台数を比較するとテスラには遠く及ばない。
日本で話題となった「ホンダe」も米国では発売予定がなく、このままでは米国で最大の自動車市場であるカリフォルニアを失うことになるかもしれない。
世界的にEVへのシフトが進む中、日本がどのような形で対応していくのかが今後の市場を巡る競争を生き抜く鍵となる。
(土方細秩子・ロサンゼルス在住ジャーナリスト)
(本誌初出 米国 「打倒テスラ」も続々 中間層に広がるEV=土方細秩子 20201208)