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「トヨタ自動車」から「自動車」が消える……テスラへの対抗意識をむき出しにする「巨人」の思惑(井上久男)

    「一代一業」にこだわる(トヨタ自動車の豊田章男社長)
    「一代一業」にこだわる(トヨタ自動車の豊田章男社長)

    トヨタ自動車は2021年1月、自動運転関連の技術を開発している子会社「トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント(TRI−AD)」を持ち株会社にして社名変更し、「ウーブン・プラネット・ホールディングス(HD)」にする。

    その傘下にソフトウエア開発やスマートシティー戦略を推進する事業会社2社を置く。

    豊田章男社長は持ち株会社に「かなりの額」の私財を投入し、資本家として経営に関与する。

    トヨタに入社した豊田氏の長男、大輔氏も現在、TRI−ADに創業メンバーとして出向中で、シニアバイスプレジデントの地位にある。

    豊田家嫡流は「一代一業」と言われてきた。

    トヨタグループの始祖、豊田佐吉は自動織機で財を成し、その資金で長男の喜一郎氏が自動車産業を興した。

    さらにその長男である章一郎氏が住宅産業に進出した。

    章一郎氏の跡取りである章男氏は、トヨタをソフトウエアビジネスに基軸を置く企業に生まれ変わらせようとしている。

    それはすなわち単にクルマを作って売るだけの企業から「モビリティーサービス」を提供する会社への変身であり、章男氏にとってはそれが新たな事業創造という位置付けだ。

    100年に1度の変革と言われるほど自動車産業に変化の波が押し寄せている中で、仕事の進め方を改め、市場の変化に柔軟に対応していくため、新たな持ち株会社がトヨタに刺激を与え、事業の「モデルチェンジ」を推進していく役割も担っている。

    例えば、TRI−ADは、新開発プラットフォーム「アリーン」を編み出した。

    これにより他の自動車メーカーとも協力しながら車のソフトウエアの開発のコンセプトから実装までを素早く効率的に行うことができるという。

    こうして開発されて車に搭載されたソフトウエアは、ハードが古くなっても継続的に刷新されていく。

    車の「スマホ化」

    スマートフォンを購入後にOS(基本ソフト)が度々更新されて新しいサービスが使えるようになるのと同じイメージで、車の「スマホ化」を推進するものだ。

    これまで車を開発する時は、ハードとソフトウエアを同時に開発していたが、トヨタはそれを22年ごろまでに切り離した体制にすると見られる。

    最新技術で開発したソフトウエアを車に注入していくイメージになる。

    このためトヨタ社内ではいま、盛んに「ソフトウエアファースト」という言葉が用いられている。

    こうした戦略の核となる1社がウーブン・プラネットなのだ。

    実はクルマの「スマホ化」で先頭を走るのはEV(電気自動車)メーカーの米テスラだ。

    FOTA(Firmware update over the air)と呼ばれる無線を使った技術で、新車購入後も新たなソフトウエアをダウンロードして機能を常に最新に保つことができる。

    テスラの動向に詳しい日本の技術者はこう指摘する。

    「テスラ車を分解したら高機能なCPU(中央演算処理装置)が二つ搭載され、それが車の各機能に指令を出す中央制御の仕組みになっており、パソコンに近い構造で、時代の流れを先取りしていた」

    テスラはこれまでの自動車会社にない発想で存在感を増している。

    単に「EVバブル」ではない。さらにテスラは「ソフトウエア力」だけではなく、ハードのモノづくりでもイノベーションを誘発する取り組みに着手している。

    今年9月22日、米カリフォルニア州で開かれた株主総会でイーロン・マスクCEOは「生産コストを落としてガソリン車よりも安いEVを開発する」と打ち出した。

    その裏付けの一つとなるのが「ギガプレス」の誕生だ。

    同州フリーモントの工場内。

    かつてトヨタとゼネラル・モーターズ(GM)の合弁工場があった場所で、アルミ合金の新素材を開発して最新車「モデルY」から車体の後部の一部を大きな金型を使って一括で作っている。

    この工程を分析した関係者によると、これまでに見たことのない手法で、新製造法によって70部品必要なところが1部品に減り、コストは30%落とせるという。

    テスラを意識

    こうした動きに対抗心をむき出しにするのが他ならぬ豊田章男社長だ。

    11月6日に開催された決算発表の記者会見ではこう語った。

    「テスラの株式の時価総額は40兆円。トヨタと他の日本の自動車メーカーを合わせても33兆円しかなく、学べる点も多くある。しかし、レストランに例えると、テスラはキッチンやシェフも持っていない中で、うちのレシピが将来スタンダードになりますよ、と言っているに過ぎない。それに対して、うちにはキッチンもあり、シェフもいて口うるさい顧客にさまざまな料理を出すことができる」

    豊田氏が公の場で競合他社を具体的に論評することは珍しい。

    自動車産業が過去の成功体験が通じない非連続のイノベーションの時代に突入しており、心中を察すると、伝統的な自動車メーカーとは違う手法で追い上げられることへの焦燥感と悔しさが同居しているのだろう。

    だからこそ、トヨタの仕事のモデルチェンジを後押しするウーブン・プラネットを作ったとも言える。

    新しい取り組みだけではなく、トヨタは新たな時代に備えてグループ内での再編も加速させている。

    燃料噴射ポンプ事業を集約し、プリウス向けなどの電子部品を作っていた広瀬工場(愛知県豊田市)を人員ごとデンソーに売却した。

    トヨタ自身もエンジン生産ラインの削減に取り組むほか、カローラのエンジンの原価を30%削減する「CCCR活動」を展開している。

    グループ内にまたがる変速機やプロペラシャフトなどの再編も視野に入っているほか、プレス部品会社の合併も画策しているようだ。

    こうした動きを目の当たりにしているトヨタ幹部の中からは

    「さらに大きな組織改編、すなわちトヨタ自体が持ち株会社になり、社名から自動車が消えて『トヨタ』になるのではないか」

    といった見方が出ている。

    実はトヨタの持ち株会社化構想は、奥田碩(ひろし)社長時代にあった。

    当時は主要グループ企業の買収防衛の観点などから生まれたが、今の時代においては再編をしやすくするための位置づけとなるだろう。

    蓄電池で合弁事業を展開して、歴史的にもトヨタとの関係が深いパナソニックも22年に持ち株会社に移行する。

    これまで両社は役員制度の構築など組織運営で学び合ってきた面がある。

    トヨタもソフトウエアやサービスを重視する「モビリティーカンパニー」へのシフトを契機に、社名から自動車が消え、「持ち株会社トヨタ」に生まれ変わる可能性は十分にある。

    (井上久男・ジャーナリスト)

    (本誌初出 巨人の焦り トヨタから「自動車」が消える日 持ち株会社化で事業再編か=井上久男 20201208)

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