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乗ってみて分かった、テスラ「モデル3」が「日本車を駆逐する勢い」の本当の理由

御殿場市のコメダコーヒーにあるテスラの専用充電施設(撮影:稲留正英)
御殿場市のコメダコーヒーにあるテスラの専用充電施設(撮影:稲留正英)

 米テスラ社の電気自動車(EV)「モデル3」に試乗した。きっかけは、週刊エコノミスト12月8日号(11月30日発売予定)でテスラを取り上げることになったからだ。

なぜテスラはトヨタの時価総額を超えたのか?

 そもそも、この特集は、7月にテスラの時価総額が自動車業界の巨人、トヨタ自動車の時価総額を上回ったことに触発されてスタートした。

 生産台数が年間37万台の新興EVメーカーがなぜ1000万台の巨大メーカーを企業価値で抜いたのか。

 常々、「株式市場は森羅万象を表す」と考える私は、「テスラは単にバブルでしょ」としたり顔で解説する経済評論家に疑問を持った。

乗る人を選ぶ「意識高い系」のクルマ

テスラのEVはほとんどの操作がタッチパネル(撮影・稲留正英)
テスラのEVはほとんどの操作がタッチパネル(撮影・稲留正英)

 結論から言うと、テスラは「乗る人を選ぶ」車だと感じた。モデル3は、乗り込むとハンドル以外の操作機器は、運転席と助手席の間にある15インチのタッチパネルしかない。ハンドルの位置、ドアミラー、エアコンの操作などは、全てタッチパネルで行う。

 独立したエアコンのスイッチすらない。日本人のスタンダードであるトヨタ車に慣れた人は面食らうはずだ。そして、確実に不平を言う。「なんだ、とっても使いにくいじゃないか」と。

購入はすべてネット経由

 販売手法も同様だ。購入は全てネット経由。しかも、価格はワンプライスで値引きはない。オプションも、自動運転を可能にするソフトウエア(87万円)のみ。「車は営業マンから値引きして買い、ディーラーで手厚いアフターサービスを受ける」のが当たり前の日本人にとっては、「何百万円もするものをネットで買うなんて」となってしまう。

「テスラはクルマメーカーではない」

ガソリン車の墓標のように見えるテスラの充電ステーション(カリフォルニア、Bloomberg)
ガソリン車の墓標のように見えるテスラの充電ステーション(カリフォルニア、Bloomberg)

 この「理解しがたく、得体のしれない」テスラという会社を理解するには、その成り立ちを学ぶ必要がある。

「実はテスラは自動車メーカーですらないんですよ」と衝撃の事実を教えてくれたのが、今回の特集にも協力してくれた著名自動車アナリストの中西孝樹さんだった。

 それは、テスラ会長のイーロン・マスク氏が2006年8月2日にしたためた「マスタープラン」を読むとよく分かる。

EVは脱炭素の手段で営利は目的ではない

 そこには、テスラの「包括的な目的」が、「採掘しては燃やす炭化水素社会から、私が主要な持続可能ソリューションの1つであると考えるソーラー発電社会へのシフトを加速すること」と書かれている。

 つまり、EVの製造はテスラの目的ではなく、その目的を達成する様々な手段の一つに過ぎない、というわけだ。

 であれば、自動車は、その目的を達成するために「再定義すべき」とマスク氏が考えてもおかしくはない。

雇用の頂点にいた自動車

 化石燃料時代の王様である自動車産業は、①巨大石油会社(オイルメジャー)、②世界中に広がる部品のサプライチェーン、③巨大な販売網――を通じて、莫大な雇用を提供してきた。しかし、地球温暖化ガスの大量排出を通じて、持続可能な経済・社会の発展を脅かすようなら、挑戦すべき対象となる。

 だが、高邁な理想を掲げても、魅力的な製品を提供しなければ、世の人は振り向いてはくれない。「それを実現するためには妥協のない電気自動車が必要不可欠」(マスク氏)だった。だからテスラが06年7月19日に発表した「ロードスター」はポルシェやフェラーリなどのガソリン車を性能で上回り、トヨタのプリウスをエネルギー効率で打ち負かすように設計されていた。

コメダ珈琲で休憩中にフル充電

テスラの充電はワンタッチで簡単(御殿場市、撮影:稲留正英)
テスラの充電はワンタッチで簡単(御殿場市、撮影:稲留正英)

 この話を知れば、このなんとも奇妙なモデル3やテスラという会社に急速に親近感が湧くはずだ。

 実際、初めは面食らったタッチパネルの操作も、高速を使った沼津までの日帰り乗車(往復約270キロ)ですっかり慣れてしまった。御殿場のコメダ珈琲の駐車場に設置されている急速充電器も、コーヒーを飲む40分の間にフル充電が完了した。

『鬼滅の刃』をみながら休憩

 高速を走れば、その加速力はポルシェ並みだ。サービスエリアの休憩時間はネットフリックスの「鬼滅の刃」を15インチのタッチパネルで極めて快適に鑑賞できる。

テスラの自動運転はまだ未完成

周囲の車両や歩行者を画面に表示できるテスラのモデル3(撮影:稲留正英)
周囲の車両や歩行者を画面に表示できるテスラのモデル3(撮影:稲留正英)

 ただ、売り物とされる高速の同一車線内の車線と速度維持機能は、急な渋滞にぶつかると同乗者を驚かすほどブレーキが急で、結局、私は機能をキャンセルして手動に切り替えた。

 また、方向指示器を出すことによる高速での自動車線変更機能も、ひっきりなしに追い越し車線から後続の車が来た場合は、勝手にキャンセルされるなど、まだまだ使い勝手は良いとは言えなかった。

 ここは、今後のソフトウエアのアップデートによる改善を期待したいところだ。

 モデル3は、オプションで完全自動運転を87万円で購入できるが、結論からいうとこれはまだ、不要だ。このオプションを購入しなくても、最初の機能は標準装備である。

メンテも修理も実は安心

 アフターサービスが不安に思われるだろうが、エンジンがないEVは、元々、メンテナンスする部分がガソリン・ディーゼル車より少ない。

 車の状態は、オーナーが許可すれば、クラウドを通じ、常時、テスラ側が把握している。

 故障や整備の際は、お台場と横浜のサービス拠点に持ち込むか、提携先であるヤナセのサービスマンがオーナーの駐車場や現場まで出向いてくれる。

中古車価格はEVの方が高い

 さらに、購入後の中古価格を考えた場合、EVは既存のガソリンやディーゼル車より残価が高い可能性がある。

 なぜなら、世界各国が内燃機関車の全面禁止に舵を切る中、市場原理的には、ガソリンやディーゼル車を売却し、EVを買う動きが強まるからだ。

 ここで、勘が良い読者は、「同じEVの日産リーフの中古価格は暴落しているではないか」と指摘するかも知れない。実際、「カーセンサー」などの中古車情報ウエブサイトを見ると、走行距離5万-8万キロの初代リーフが、30万円前後で叩き売られている。

日産リーフの中古車が安かった理由

初代日産リーフと並び、チャデモで急速充電するテスラモデル3
初代日産リーフと並び、チャデモで急速充電するテスラモデル3

 2010年に華々しく登場したリーフは、バッテリーを冷却するシステムが搭載されていないため、初期のモデルはバッテリーの劣化が早く、航続距離が極端に短くなるという問題が発生。「EVは値段は高いが、走らない」というイメージを植え付けてしまった。それが未だに尾を引いている。

電池の温度管理システムを備えたテスラ

テスラの充電ステーション(カリフォルニア、Bloomberg)
テスラの充電ステーション(カリフォルニア、Bloomberg)

 それに対し、テスラは当初から、バッテリーの温度と寿命を管理するシステムを搭載。リーフは20年9月に累計生産台数が50万台を超えたが、17年発売のモデル3はわずか3年で62万台に達した。日産に技術力がないと私は思わない。しかし、日産には、マスク氏ほど、来るべき「脱炭素社会」への確固たるビジョンも覚悟もなかったように私には思えるし、それは、日本の他の自動車メーカーにも当てはまるのでないか。

利益率はトヨタを上回る9.2%

トヨタ自動車の豊田章男社長 (Bloomberg)
トヨタ自動車の豊田章男社長 (Bloomberg)

 テスラが10月21日に発表した第3四半期決算は、過去最高の利益を更新。営業利益率も9.2%を達成し、「EVは儲からない」という業界の常識を覆しつつある。

 それでは、日本人にビジョンに覚悟もないかと言えば、そんなことは断じていない。それは、この経営者の言葉が明確に示している。「人は生きている限り、乗り物は絶対に必要なものなんだ。どんなに形が変わっても永久に無くならない」(本田宗一郎)。

マスクは本田宗一郎の忠実な後継者

化石燃料依存に終止符(イーロン・マスクCEO)(Bloomberg)
化石燃料依存に終止符(イーロン・マスクCEO)(Bloomberg)

 宗一郎の忠実な後継者がイーロン・マスクだったのは、我々、日本人にとって、誠に皮肉ではないか。今回の試乗を通じて、私はそんな感想を持った。

(稲留正英・週刊エコノミスト編集部)

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