教養・歴史書評

『グレート・リセット ダボス会議で語られるアフターコロナの世界』 評者・上川孝夫

    著者 クラウス・シュワブ(世界経済フォーラム会長) ティエリ・マルレ(『マンスリー・バロメーター』代表) 訳者 藤田正美、チャールズ清水、安納令奈 日経ナショナル ジオグラフィック社 2200円

    コロナ禍で世界の「断層」露出 再考不可避の「新自由主義」

     例年1月、各国の政財界のリーダーらを集めて、世界経済フォーラムの年次総会がスイスの保養地ダボスで開催される。通称「ダボス会議」である。今年は新型コロナウイルスの影響から5月の予定だが、会議のテーマになる「グレート・リセット」を解説したのが本書である。

     危機の最中の2020年6月に書かれたという本書は、パンデミックから半年もたたないうちに世界はすっかり様変わりし、以前から潜んでいた「断層」が表面に露出したと見る。格差の拡大、不公平感の蔓延(まんえん)、地政学的分断やグローバル・ガバナンスの機能不全、行き過ぎた金融化、地球環境の悪化等々である。同時にデジタル化が加速し、イノベーションが次々に生まれている。

     本書はコロナ禍を契機に、より公平で持続可能な未来を作るため、経済社会の基盤を「リセット」する必要があるとし、それを三つの視点から論じている。経済、社会、地政学、環境、テクノロジーといったマクロの視点。特定の業界や企業から見たミクロの視点。そしてさまざまな影響を受ける個人の視点である。

     昨年のダボス会議では、株主の利益を優先する資本主義ではなく、従業員、顧客、地域社会など全てのステークホルダー(利害関係者)に貢献する「ステークホルダー資本主義」の重要性が示されたが、アフターコロナではそれが優位になり、「新自由主義」は終焉(しゅうえん)を告げると予測する。そこには環境への深い懸念もある。またコロナ禍で特に被害が大きい労働市場に言及し、実質所得が停滞するなか、社会契約が見直され、公正さが前面に出てくると指摘する。

     急速に台頭するテクノロジーについても、それを公益のためにどのように管理すべきかの問題が、新たな課題として加わる。「監視資本主義」への懸念が広がり、未来がユートピアとは逆のディストピアになるリスクが指摘されている。個人の自由を犠牲にすることなく、テクノロジーの恩恵を管理し、公共の利益に生かせるかが議論のカギと見る。

     他にも論点は多いが、著者は本書で述べた議論を一般化したり推奨したりする意図はなく、グレート・リセットも誰もが合意しているわけではない、と述べている。当然十分な議論が必要だろう。ステークホルダー論一つとっても、企業の生み出す価値をどのようにステークホルダー間に分配するかという重要な問題がある。世界が本当により良い方向に向かうかは、リーダーの言葉ではなく、行動や結果で試されることも忘れてはならない。

    (上川孝夫・横浜国立大学名誉教授)


     Klaus Schwab 1938年、ドイツ・ラーベンスブルグ生まれ。71年に世界経済フォーラムを創設した。

     Thierry Malleret 1961年、フランス・パリ生まれ。オンラインメディア『マンスリー・バロメーター』創設者。

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