教養・歴史書評

続々と姿消す出版社PR誌=永江朗

 出版社のPR誌が好きだという読書家は多い。筆者も中学生のとき、岩波書店の『図書』を定期購読して以来、さまざまな出版社PR誌を愛読してきた。PR誌にはその出版社から出る本の書評や著者インタビューなどのほかエッセーや小説なども載る。広告も自社のものだけでなく、他社のものも載るのは、ちょっと奇妙かもしれない。ANAの機内誌にJALの広告が載ったり、トヨタ自動車のPR誌にホンダの広告が載るなんて考えられない。こういう大らかさが出版界のいいところだと思う。

 以前、筑摩書房の編集者だった松田哲夫さんに「PR誌は売り上げや返品率を気にしないですむので、作るのが楽しい」と聞いたことがある。松田さんはPR誌『ちくま』の編集長も兼務していたことがあった。『ちくま』の連載からは、赤瀬川源平『老人力』のようなベストセラーも生まれている。

 PR誌には書籍にするための連載場所という役割もある。拙著『セゾン文化は何を夢みた』も朝日新聞出版のPR誌『一冊の本』の連載が元。いっこうに原稿が進まない私に業を煮やした編集者が「連載場所を確保したので、すぐ書いてください」と迫ったのだ。もっとも、拙著は『老人力』のような大ヒットとはいかなかったけれども。

 ところが、このPR誌も少しずつ姿を消している。売り上げや返品率は関係ないけれどもコストはかかるのだ。2020年の春にはダイヤモンド社が『経』を3月号で休刊し、小学館は11月に『本の窓』を紙からウェブ版に移行した。

 講談社は『本』を20年12月号で休刊。1976年創刊で、同誌からは福岡伸一『生物と無生物のあいだ』や原武史『鉄道ひとつばなし』などのベストセラーが出ている。そういえば講談社には『IN★POCKET』というユニークなPR誌もあった。文庫サイズで、内容も文庫に特化し、他社の文庫情報も載せていた。流行語にもなった酒井順子『負け犬の遠吠え』の連載は同誌だったが、18年8月号を最後に休刊している。

 情報発信のあり方が多様化するなか「紙媒体のPR誌としては一定の役割を終えた」と「『本』休刊のお知らせ」にはある。


 この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。

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