教養・歴史書評

『中国・金融「自由化」と人民元 「国際化」の政治経済学 「改革・開放」後の中国金融経済40年史』 評者・服部茂幸

著者 鳥谷一生(京都女子大学教授) 晃洋書房 3300円

世界を左右する中国経済 自由化、国際化めぐる熟考の書

 2008年の世界金融危機の後、先進国の回復が遅れる中で、よかれあしかれ存在感を高めているのが中国である。

 しかし、現在中国が進めようとしている人民元の国際化と金融の自由化は、中国の計画経済体制を揺るがせる可能性があると論じるのが本書である。資本主義経済(特に現在の新自由主義的な資本主義)では、金融市場を通じて、資源配分を行うことになっている。しかし、自由な金融市場は投機を生み、資源配分をゆがめると考えているのが、本来のケインズ経済学である。だから、金融を規制し、代わりに財政による資源配分を考えていた。計画経済に信をおく社会主義経済も同様である。

 さて、現在の国際通貨システムは米ドルを事実上の基軸通貨とするものである。世界金融危機後、中国人民銀行の周小川(しゅうしょうせん)総裁(当時)は、この米ドル本位制の改革案を訴えた。彼はIMF(国際通貨基金)が発行するSDR(特別引き出し権)を活用しようと訴えた。著者はこの改革案に賛意を表する。けれども、これまでと同様大きな改革は行われていない。

 他方で、中国政府は香港のオフショア市場を利用して人民元の国際化を進めようとした。そのためには外国人が人民元を使って、金融取引ができるようにしなければならない。つまり、金融市場の自由化が必要だということである。だから、著者は人民元の国際化はできないと論じ、実際にも失敗したと言う。これもその通りであろう。

 それにもかかわらず、筆者は金融を国際化せざるを得ない理由が中国にはあると言う。その原因は08年にさかのぼる。世界金融危機時に中国は4兆元(60兆円)の財政出動を行った。その資金の多くは省・地方自治体が作った「地方融資平台」(証券化のために特別に設立したファンド)を使って集められた。事実上の省・自治体の借金ということになる。こうした債務依存型の成長を維持するために、金融を自由化させなければならないのである。

 けれども、アメリカとは違い、中国は巨大な債権国である。だから、金融市場を国内的に自由化する必要があっても、国際的に自由化する必要はないと評者は考える。

 ところで、今の中国がどれだけ、社会主義の理念に忠実であるか、評者も含め疑問に思っている人は多いであろう。だから、逆に金融を自由化、国際化しても、今の体制は壊れないということはあり得ると評者は考えている。

(服部茂幸・同志社大学教授)


 鳥谷一生(とりたに・かずお) 1959年生まれ。同志社大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得退学。商学博士。『国際通貨体制と東アジア』『世界経済論』(共編著)などの著書がある。

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