コロナ禍で伸びる「聴く」本=永江朗
音声を聴く本、オーディオブックの利用が、コロナ禍の中で拡大している。カセットテープやCDの時代から朗読や講演を録音した商品はあった。特に米国では、小説やノンフィクションの注目作が出ると、オーディオブックも日を置かずして発売される。車の運転中も楽しめるため、自動車社会の副産物とも言われている。
日本ではオーディオブックは米国ほど普及していなかったが、インターネットとスマートフォンの登場で様相が変わってきた。販売形態も、カセットテープやCDなどのパッケージから、配信によるダウンロードやストリーミングに変わり、単品購入のほか定額聴き放題も利用できるようになっている。内容も作品の朗読や講演だけでなく、ドラマ仕立てのものなど多様だ。最近はオーディオブック・オリジナルの作品も登場している。電子書籍の読み上げ機能を使う人もいる。
オーディオブックの利点は、両手がふさがっていても聴けること。満員電車や寝床の中でも“読書”ができる。また音声技術の進歩により再生速度を上げても聴きやすく、高速でビジネス書を大量に聴くという人もいる。「目が疲れない」「朗読する人の声に癒やされる」という感想も聞かれる。
こうした新しいオーディオブックの日本での草分けはオトバンク。2004年の設立で、07年にオーディオブック配信サービス「FeBe(フィービー)」を開始した。15年にはアマゾン傘下の「Audible(オーディブル)」が日本に参入し、両者が競うことで認知度が高まり、利用者も増えている。
18年にはオトバンクがサービス名を「audiobook. jp(オーディオブックドットジェイピー)」に変更するとともに、それまで1冊ごとの単体販売だけだったのに加えて聴き放題プランも導入した。同社の新サービス名の会員数は20年秋に150万人を超え、ライバルのオーディブルも会員数を公表していないが、やはり急激に会員数が伸びているという。
紙の書籍・雑誌が市場収縮する中、オーディオブックは電子書籍に次ぐ新たなジャンルとして期待されている。
この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。